煙が目にしみる7

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「俺はまあ、純情というのとは違ったみたいだけど」
 元気がボソッと言った。
「元気ってば、向こうにいっぱい彼女、いたんでしょ?」
 紀子がすかさず突っ込む。
「そういや彼女って、いなかったな」
「うっそばっかー」
「いや、何てーか、無節操とか言われてて、決まった彼女ってのは……」
「お前、いっぺん死にさらせ!」
 はははと笑う元気を見て、東は声を大にする。
「あっきれたー! 元気、サイテー」
 今度は紀子までが東に同調して睨む。
「チクショー! 人気ミュージシャンなんかやってたやつに、この切なさがわかってたまるか!」
「だから、そんなの過去の話だって」
 客が入ってきたので、紀子はグラスに水を用意してトレーに載せた。
 外はもう日が傾き始めていた。
 古いレコードは時々ピシピシとノイズをあげながら、ゆったりと気だるいサックスのメロディを奏でている。
 いつもは音にうるさかった父親自慢のオーディオセットで父親の遺したクラシック音楽を流しているのだが、この店で生バンドの演奏をやることもある。
そのために、店を継ぐと決めた時、元気は店内に防音設備を施した。
「へえ、雑誌の取材?」
 カップルが一組入ってきてから客足も途絶え、紀子は東の横に座って、元気相手にまたおしゃべりを始めた。
「すごいじゃん、何代も続く造り酒屋だもんな、紀ちゃんとこ」
「でもなんか、オヤジ向けの雑誌みたいだしー」
 朝から紀子の実家である造り酒屋に取材が入ったというのだが、紀子としてはそれが不満らしい。
「そういうのに載っけてもらった方が、造り酒屋としてはありがたいと思うな」
「えー、そうかなぁ。でもどうせなら、坂之上豪とかに写真、撮ってもらいたいなー。ねえ、元気から頼んでよ」


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