雪は静かに降り続いていた。
冷気の中に吐く息が白い。
ドアに鍵をかけると、元気は数件先にある自宅に向かって歩き出した。
きゅっきゅっと雪を踏みしめる音がやけに響く。
家はすぐそこに見えていた。
元気は家の裏手に回り、狭いガレージに入っていくと、愛車のSUVのドアを開けて乗り込んだ。
「さっさと乗れ」
豪に声をかけて、元気はエンジンをかける。
豪はむっとした表情のままのっそりとナビシートに乗り込んだ。
「ホテルはどこだ?」
「ホテルなんかとってない。仕事終わって、一平と会ってすぐ、あんたの店に向かったんだ」
元気は舌打ちする。
「じゃあ、ラブホでも行くか? 男二人で」
あざけるように、元気は言った。
車は雪道を走り出した。
轍になっているので、のろのろとしか走れない。
商店街は車もたまにすれ違うくらいでひっそりとしていたが、それでも観光客らしい人影もある。
「やけくそで抱かれてくれたって、ありがたくも何ともない」
助手席でボソリと、豪が呟く。
「もういい、わかった。駅で降ろしてくれ」
「駅? もうこんな時間じゃ、JRもバスもないぞ」
「ああ。自分で宿を探すから」
力なく、豪はそう返した。
駅に着くまで、互いに言葉がなかった。
車が駅前に来ると、「ここでいい」と豪が言った。
「押しかけて悪かった」
右に曲がり、コンビニの向かいで元気が車を停めると、静かにそう言い残し、豪は車を降りた。
道路を渡り、豪は向かいのビジネスホテルに入っていく。
次第に強くなってくる雪の中に、豪の姿が消えていくのを元気は見ていた。
大きな背中がひどく頼りなくて、心はめちゃくちゃ痛い。
あんなことを言って、傷つけるつもりはなかったのに。