煙が目にしみる65

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 雪は静かに降り続いていた。
 冷気の中に吐く息が白い。
 ドアに鍵をかけると、元気は数件先にある自宅に向かって歩き出した。
 きゅっきゅっと雪を踏みしめる音がやけに響く。
 家はすぐそこに見えていた。
 元気は家の裏手に回り、狭いガレージに入っていくと、愛車のSUVのドアを開けて乗り込んだ。
「さっさと乗れ」
 豪に声をかけて、元気はエンジンをかける。
 豪はむっとした表情のままのっそりとナビシートに乗り込んだ。
「ホテルはどこだ?」
「ホテルなんかとってない。仕事終わって、一平と会ってすぐ、あんたの店に向かったんだ」
 元気は舌打ちする。
「じゃあ、ラブホでも行くか? 男二人で」
 あざけるように、元気は言った。
 車は雪道を走り出した。
 轍になっているので、のろのろとしか走れない。
 商店街は車もたまにすれ違うくらいでひっそりとしていたが、それでも観光客らしい人影もある。
「やけくそで抱かれてくれたって、ありがたくも何ともない」
 助手席でボソリと、豪が呟く。
「もういい、わかった。駅で降ろしてくれ」
「駅? もうこんな時間じゃ、JRもバスもないぞ」
「ああ。自分で宿を探すから」
 力なく、豪はそう返した。
 駅に着くまで、互いに言葉がなかった。
 車が駅前に来ると、「ここでいい」と豪が言った。
「押しかけて悪かった」
 右に曲がり、コンビニの向かいで元気が車を停めると、静かにそう言い残し、豪は車を降りた。
 道路を渡り、豪は向かいのビジネスホテルに入っていく。
 次第に強くなってくる雪の中に、豪の姿が消えていくのを元気は見ていた。
 大きな背中がひどく頼りなくて、心はめちゃくちゃ痛い。
 あんなことを言って、傷つけるつもりはなかったのに。


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