年の瀬も押し迫るにつれて人も街も慌ただしさを見せていたが、雪は半端でなく積り、雪の重みで木々はしなり、屋根からは大きなつららが下がっていた。
久しぶりに晴れても、幹線道路ではない街中の道は轍ができて、車はのろのろ状態だ。
それと足並みをそろえたわけでもないだろうに、毎日雪よけでくたびれていただけでなく、元気から覇気が消えていた。
「元気、カフェオレだってば。これ、ミルクティじゃん」
元気がミルクパンからカップに注いで、紀子に差し出すと、紀子が声のトーンを落として言った。
「え、あ、そうだっけ?」
ボケボケしてオーダーをトチったのは、一度や二度ではない。
夕方、四時過ぎになると、東がやってきてまず、元気はどうだ? と紀子に目で合図する。
紀子は首を横に振って、ふうっとため息をつく。
「店の空気まで、何かウザいよね、だれかさんのおかげで」
東が仕切って仲間内で集まった忘年会も、元気がらしくもなく静かなので、全く盛り上がりに欠けた。
東も心配して店に寄るたび、元気にそれとなく、「悩みごと聞くだけならタダにしといてやるぜ」などと探りを入れるのだが、元気は「何で? いたって健康だぜ、心身ともに」と、取り合おうとしない。
「センセが変なレコード持ってくるからよ」
カウンターに陣取った東に、こそっと紀子が耳打ちする。
「これ?」と、東は店内に流れている曲を指差す。
『煙が目にしみる』、それが年代物のレコードプレーヤーで最近かかっていることが多い。
「そ。最近、こればっか聴いてる。で、時々、はあ、とか言ってため息つくのよ」
「元気がねぇ。あいつ、そういうキャラじゃねーよな?」
客が途切れたのをいいことに、二人はちらちらと元気を見ながらぼそぼそと囁き交わす。
「紀ちゃん、何か心当たりないの?」
東は隣に座った紀子にこそっと聞く。
「まあねー、元気に世話になってるの、センセやあたしだけじゃないしね。彼女彼氏のことでは。うまくいってるかいってないかは別として」
「どうせ、振られるのは俺だよ。でも、紀ちゃん、克典とまだ仲直りしてないの?」
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