顔を赤くした東は思わず身を竦めた。
「…ごめん」
勝手気ままなようで、一平が自分を大切にしてくれたことを、元気はわかっていた。
バンドを抜ける理由の一つは、口にすることはないだろうと思っていた。
大体、何で今頃になって言うんだよ! バッカやろ!
今となってはもう一平の思いには応えられない。
いろんな感情の狭間で、元気が選択したのは、自分が消えることだった。
「俺は『GENKI』にいられて幸せだったよ。お前らに会えたことも」
穏やかな笑顔で、元気はそう言った。
「わかったよ。今は引き下がるさ」
一平はフンと鼻で笑う。
「『GENKI』は、お前のために作ったバンドだ。いつ戻ってもいいように、お前のポジションはあけてある。それだけは忘れるな」
一平はコートの裾を翻して、店を出て行った。
「元気! わざわざこんな辺鄙な街まできて、あそこまで一平が言ってるのに、いいの? ほんとに」
カッコいい、と一平が出て行った後もしばらくその余韻に浸っていた紀子だが、我に返って元気に問いただした。
「いいんだよ」
そっけない返事を元気は返し、カップを片づけ始めた。
わざわざここまできてくれただけでも、元気は嬉しかった。
一平はそして、これからも仲間としてつきあう余裕を残してくれた。
「あれ、これ、忘れ物じゃねー?」
カウンターに置き去りにされた書店の紙袋を見て、東が言った。
「なあに? これ」
紀子が袋から取り出したのは、厚い装丁の本だ。
「豪の写真集じゃない! わ、きれー」
「豪の、写真集…?」
怪訝そうに、元気も顔を上げる。
なぜそんなものを一平が?
カバーには、雪の川辺に佇むサギが写し出されている。
サギ………?
「わあ、キタキツネだ!」
「やっぱ、これあそこの川べりやで」
東も覗き込んでパラパラとめくる。
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