煙が目にしみる70

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 顔を赤くした東は思わず身を竦めた。
「…ごめん」
 勝手気ままなようで、一平が自分を大切にしてくれたことを、元気はわかっていた。
 バンドを抜ける理由の一つは、口にすることはないだろうと思っていた。
 大体、何で今頃になって言うんだよ! バッカやろ!
 今となってはもう一平の思いには応えられない。
 いろんな感情の狭間で、元気が選択したのは、自分が消えることだった。
「俺は『GENKI』にいられて幸せだったよ。お前らに会えたことも」
 穏やかな笑顔で、元気はそう言った。
「わかったよ。今は引き下がるさ」
 一平はフンと鼻で笑う。
「『GENKI』は、お前のために作ったバンドだ。いつ戻ってもいいように、お前のポジションはあけてある。それだけは忘れるな」
 一平はコートの裾を翻して、店を出て行った。
「元気! わざわざこんな辺鄙な街まできて、あそこまで一平が言ってるのに、いいの? ほんとに」
 カッコいい、と一平が出て行った後もしばらくその余韻に浸っていた紀子だが、我に返って元気に問いただした。
「いいんだよ」
 そっけない返事を元気は返し、カップを片づけ始めた。
 わざわざここまできてくれただけでも、元気は嬉しかった。
 一平はそして、これからも仲間としてつきあう余裕を残してくれた。
「あれ、これ、忘れ物じゃねー?」
 カウンターに置き去りにされた書店の紙袋を見て、東が言った。
「なあに? これ」
 紀子が袋から取り出したのは、厚い装丁の本だ。
「豪の写真集じゃない! わ、きれー」
「豪の、写真集…?」
 怪訝そうに、元気も顔を上げる。
 なぜそんなものを一平が?
 カバーには、雪の川辺に佇むサギが写し出されている。
 サギ………?
「わあ、キタキツネだ!」
「やっぱ、これあそこの川べりやで」
 東も覗き込んでパラパラとめくる。


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