煙が目にしみる76

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 元気に会う勇気もないまま、この二年というもの、暇をみてはT市近隣の地を訪れ、あちこち歩いて回った。
 冬は元気とスキーに行こう、なんて言っていたのに、結局、それもかなわなかった。
 だから冬になると、山の中に入って冬の動物たちを追いかけたりする傍ら、豪は一人片っ端からこの辺りのスキー場を訪れて滑った。
 もちろん、スキー場で元気とばったり、なんてことはなかったけれど。
 ちぇ、ストーカーはストーカーでも、俺はただのストーカーじゃないからな。
 まさに開き直りの境地だ。
「さっきのパンフレット、見せてみろ」
 パンフレットを見ながら、
「こっちの斜面の下の方から入ってみるか。お前ら、ここいらで待ってた方がいいぞ」
 豪は二人を置いて、スキー場の裏側から山に脚を踏み入れた。
「あ、おい、そこの男、そっちは立ち入り禁止だぞ、雪崩がきたばっかだから、おい!」
 地元の者らしき男が慌てて声をかけるのが聞こえたが、既に豪は山を登り始めていた。


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