クリスマスイブを明日に控え、昨夜は店が終わるとパーティの準備をしてから『昇り竜』の面々と店内で音合わせと、元気にしては忙しく過ごした。
二日ほど晴れた日が続いたが、街にはまた小雪がちらつく真冬日にもかかわらず、師走というのに朝から観光客の出入りが多い。
「ええ? おばさん、和倉温泉行ったの? いいなー、私も行きたいなー」
紀子は羨ましそうにぶつぶつ口にした。
「ね、元気、お正月、スキー行こうよ、その帰りどこかで温泉入るってのどう?」
元気の母親はついこの間スカイツリーを見に行ったと思ったら、今度は二泊三日で、高校時代からの友達と三人でと和倉温泉だ。
年に一度、三人で旅行に行くのが恒例になっている。
「誘う相手、違うだろ。しかしほんと、お気楽を絵に描いたような母親だよな」
父親とはいい勝負の夫婦だった。
好き勝手をしているようで、あれでお互いに労わり合っていたのだ。
父親がいなくなった今も、自分や母親が案外のほほんと生きていられるのも、あの、明日があるさ、的信条の父親がいたからこそのような気がする。
午後も三時を過ぎると客が潮が引いたようにいなくなり、窓際のカップルだけになった。
ようやく一段落ついたので、紀子はカウンターの椅子に腰をおろした。
「俺たちもお茶にしようか」
「あたし、カフェオレね」
元気の提案に、紀子の返事は早い。
「了解」
しばらくして店の電話が鳴った。
「え? どちらさま? ……優花、さんですか? はい、少々お待ちください」
電話に出た紀子の声に、元気は訝しげに振り返る。
「優花さん? って人からよ」
「……優花?」
何だろう、と思う。
あの、優花、だろうか。
だったら、いったい何の用で?
こういう胸騒ぎは好きではない。
『…元気……!』
確かに優花の声だ。
「優花、か? どういう風の吹き回しだ? お前がわざわざ俺に電話をくれるなんて」
『……どうしよう、元気……』
携帯からのようだった。
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