記者らを振り切って慌てて追いかけてきた豪が必死な顔で覗き込んでいる。
無視して発進しようとしたが、豪はドアにへばりついて、取っ手をガタガタ言わせている。
「うるさい! 何だ!」
元気はウインドウを下げて喚く。
「ドアを開けろって言ってるだろ!」
険しい形相で、豪が怒鳴る。
元気は仕方なくドアを開けた。
すぐに開けたドアから豪が押し入ってくる。
「何すんだ!」
「そっち、行けっての!」
その勢いにおされて、元気は不承不承、助手席に移る。途端、いきなり車は発進した。
「おい、勝手に動かすんじゃねー!」
「あんたが、往生際が悪いからじゃねーか!」
その時バックミラーに優花の姿が映った。
「ちょ、待てよ! 優花がいるんだ! お前を心配して……」
元気は後ろを振り返りながら怒鳴る。
「勝手にきたんだろ、知るか。ガキじゃあるまいし、一人で帰れるさ」
焦る元気とは裏腹に、クールな答えを返す。
「お前、ひっでぇ、こんなとこに、女、一人ほっぽって行くつもりかよ!」
「ひでぇのはあんただろ?!」
そう言われてしまうと、元気には何も言えなくなる。
スキー場をあとにすると、車は坂道を下り始めた。
辺りはとっくに夜だ。
雪は小止みになっているが、道路の表面はアイスバーンになっているのでスピードも出せない。
「どこへ行く気だ?」
しばらくの沈黙の後、元気が聞いた。
「さあ、どこがいい? あんたとやれるとこならどこでもいいぜ。その辺のラブホでもどこでも」
「お前…」
この間の意趣返しのような台詞に、元気はチッと舌打ちする。
どうやら豪はひどく怒っているらしい。
言い返す気にはならなかった。
ここまでくると、豪に対して突っ張っていることがそれこそバカバカしくなってきた。