夏を抱きしめて20

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 口をつけていたビールを噴出しそうになって、やっと飲み込んだ元気は、まじまじと兄を見つめる。
「母さんから、豪くんが近くに引っ越してきたって聞いたよ。何年か前の夏、うちに連れてきたことがあったろう。ほら、オヤジと一緒に釣りに行った時。今までいろんな子とつきあってたみたいだけど、あの時の元気、心底嬉しそうだったからな」
 いくらなんでも意外な発言に元気はうろたえる。
「何で……」
「元気のことでわからないわけないさ」
「ってか……いいわけ? それで」
「俺がいいとか悪いとかの問題じゃないだろう。お前が幸せなのかどうかが一番大切なんだ。またいつかみたいに悲壮な顔をした元気を見たくないしね。あの時、オヤジが亡くなったことだけじゃないだろう? お前は何もかも捨てて家に戻った。お前の決意は揺らぎそうになかったから、口は出さなかったが」
 元気は兄の優しい眼差しを見上げ、かすかに笑う。
「母さんもあれで心配してるんだぞ」
 カルチャースクールで生け花を教えたりしながら、今日は層雲峡、明日は雲仙と『絵手紙』仲間と飛び回っている母は、少々の怪我ぐらいなめておけば治る、という風な人だ。
 干渉しないというか、自分のことは自分でしろというか、そんな母親だからこそ、元気も好き勝手してこられたわけだが、心の機微を心配するようなタイプではないと思っていた。
「いつだったか電話で、真剣に言ってた。元気が嫁に行くかもしれないから、嫁入り道具を揃えとかなくちゃ、って」
 勇気はクスリと笑う。
「………はあああ?? 何それ?」
 元気は呆れて二の句が継げない。

 


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