ACT 4
パニックという言葉にはさほど縁がなかった。
世界を飛び回り、危険な地域にも足を踏み入れたことがあるが、そういう場所ほど常に冷静に周囲を見、冷静に判断して動く。
でなければカメラマンなど務まらない。
はずだった。
昨夜のあの時までは。
「わりぃ、葉子ちゃん」
ファインダーから朔也の動きを追いながら、豪は近くに立っていた顔見知りのADに声をかけた。
「ジーパンのポケットでさっきから携帯鳴ってんだけど、ちょっと用件聞いといてくんないかな?」
言いつつシャッターを押す。
いつ、いいショットが撮れるかわからないから、常に目は朔也を追っていた。
「はーい」
若いADの葉子は人気カメラマンの豪や、俳優の朔也がいることだけでもめちゃくちゃ喜んでいたのだ。
その豪に頼まれごとをされた日には舞い上がり状態で、豪のポケットからコールしている携帯を取り出して言った。
「はい、ご用件はなんでしょう?」
仕事中の豪に代わって出ている誰々だが、とでも名乗れば、まだマシだったかもしれない。
「もしもし?」
だがすぐ相手は切ってしまった。
「何だって?」
「切れちゃいました」
「そう、サンキュ」
よもや元気が電話してくるはずがない。
豪は信じ込んでいた。