「お疲れ様でした~」
仕事が終わったのは珍しく早くて十一時少し前。
器材を背負って、スタジオのパーキングに停めてある車へと歩きながら、そういえば、さっきの電話、誰からだったんだろう、と思い出し、豪は携帯を取り出して着信履歴をチェックした。
元気。
自分で入力した二文字が画面に浮かんでいる。
しかも二度。
「ウッソだろ!?」
危うく器材を足の上に落としそうになるほどの衝撃に、どうしよう、どうしよう、とオロオロ辺りを見回すが、何も目に入っていない。
「何で、だよぉ、そんな……」
ようやく携帯で元気を呼び出してみるが、何度やっても『……電波の届かないところにいるか電源が……』入っていないのだろう。
器材を担いだまま、車の周りをウロウロと歩き回りながら、今度は伽藍にかけてみるが、何度かかけても出るようすはない。
「とっくに、店閉めてるよな…家、にかける時間じゃないしな~」
田舎の十一時に電話をかけるなんて非常識にもほどがある、と怒られるに決まっているが、やはりここはかけないではいられない。
「緊急事態だ。元気ぃ、出てくれよ~」
『おや、豪さん』
覚悟を決めてかけた電話に出たのは、元気の母親だった。
「あ………………、すっごい夜分にすみません、あの、元気は……」
『元気ならそっち行ってるけど』
「へ、そっちって東京、っすか?」
東京にいる? どういうことだよ?
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