夏を抱きしめて35

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 総ガラス張りのバーはビルの八階にあって、BGMも気づけば流れている程度に静かな店である。
「将清もこういう店に足を運ぶほどには大人になったか?」
「言ってろ。夜景も酒も折り紙つきだ」
「カップルばっか」
「いい店だな。俺の店よりちと落ちるが」
 毛利と江川に続いて元気がカウンターに陣取る。
 そう広い店内ではない。
 数組の男女が窓際のテーブルを占領し、長いカウンター席もあと一人も座れば一杯だ。
「でもサギだよな、いつもはバリバリミュージシャンってカッコしてるのに元気のスーツなんか初めて見たよ、将清と二人、モデルさんですか、なんて女の子に囲まれちゃってさ」
 それぞれの前にオーダーした酒が置かれると、江川がボソリと呟く。
「ああ、二次会、滞りなく終わってよかったじゃん、優作」
「俺はどうせ二人の引き立て役だよ」
「またまた、何すねてんのさ、お前が幹事だっていうから、出たんだぞ~」
 元気は笑い、江川の肩に腕を回して、顔を覗き込む。
「うるさいよ、『幻のギタリスト』なんて言われてさ」
「おい、もうその眉唾な話題から離れろよ。酔ってるのか?」
 江川を諭すように元気はちょっと声をひそめる。
「俺も聞いたぜ。どっかのプロダクションと涼子がその『幻』を巡ってやりあったってよ」
 すっと元気の横に座りしな、威圧感だけで何者? な男が不躾に話に割り込んできた。
「え………何で?」
 一平はバーテンダーにジャックダニエルズをロックで注文する。
「あっちぃ、クソ暑いのにお前らよくそんなもん着てられんな」

 


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