携帯、勝手に押しつけたのも気に入らないのかも。元気、押しつけがましいの、大嫌いだもんな。束縛されるのも。
壁にもたれて腕を組みながら難しい顔をしているので、『硬派なイケメン』などと勝手にキャッチコピーがつけられたりしたが、その実、グダグダと元気のことで頭の中は一杯なのだ。
ストーカーと言われようが何と言われようが、元気のことを諦め切れなくてT市周辺に通いつめて二年、元気の店も元気自身のことも遠巻きに見ていた。
そんな俺のこと呆れたよな~
とりあえず元気に受け入れてもらった豪ではあるが、考えれば考えるほど、元気に好きでいてもらうような要素が自分にはないように思えてくる。
ぶるると後ろ向きな考えを振り払うように頭を振り、睨みつけるように前を見据えると、メイクを直してもらっていた朔也が、次のシーンに備えているのが目に入った。
豪ははう~と大きくため息をつくと、愛用のカメラを手に仕事モードに切り替える。
シニカルな口調で文句を言ったり、ADや共演女優をからかったりしていた朔也が、一瞬のうちに表情を変える。
役そのもののように自然になりきっている、というのが昨今の朔也評だ。
そんな表情の変化を逃すまいと夢中でシャッターを押す。
真剣に何かに打ち込んでいる人間の表情は美しいと思うが、豪は人間を撮るのはあまり好きではない。
ただ、穢れない子供たちの瞳は別だ。
動物や自然の嘘がない純粋さだからこそ追い求める。
肉食獣が獲物を捕らえるための狡猾さすら、生に対して純粋であると思う。
それが豪を惹きつけて止まない。
人間のエゴからくる狡猾さと同じくくりにしたくはない。
どうしても、と懇願されて受けた井上美奈子の撮影はそれなりにうまくいったと思うが、その後の売名行為的なやり方には正直言って腹が立つ。
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