ACT 2
「今のすげー決まってた! 朔也さん」
坂之上豪はファインダーを覗きながら、被写体である俳優に思わず賞賛の声をかけた。
代官山の洒落たバーを借り切って、店が閉店した後に、TVドラマの撮影が進められている。
「フン、俺を誰だと思ってんだ」
聞きようによっては倣岸不遜な台詞だが、この美貌の俳優なら許されると周りが思ってしまうのだから恐ろしい。
川口朔也。
性格に多少難ありだが、実力は評価されているし、そんじょそこいらの女性にも負けないクールな美貌にも人気がある。
撮影の合間、豪はファインダーを通してひたすら朔也の一挙手一投足を追う。朔也の写真集を出したがっていた事務所の社長から随分前にオファーをもらっていたのだが、当人がずっと渋っていたためなかなか実現しなかった。
「元気……怒ってたよな……」
ちょっと手を休めると、豪の思いはすぐに離れたところに住む恋人へと走る。
本気で恋人……って、思ってくれてんのかな、元気。
そもそも、俺が追っかけてって強引に住みついちまったことからして怒ってんのかも。
無意識のうちにポケットから携帯を取り出して見ている。
電話はおろか、メールなんか来たためしがない。
「電話すんの、俺からだけだもんな。ちぇ……」
元気の店に電話をかけて怒られてから、既に五日目。日に一度は携帯に電話したり、メールしたりしていた豪だが、仕事に入ったのとちょっとした意地で、連絡を取っていない。
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