二月も半ばを過ぎ、ここ数日は不安定な天気が続いている。
昨日などは気温がいきなりぐんぐん上昇し、通りを行く人々も上着を脱いで汗を拭きながら歩いていたかと思えば、今日は藤堂氏もマフラーをしっかり巻いてやってきた。
「また冬将軍が舞い戻ってきたみたいだよ」
青山にある最近できたばかりのこ洒落たオフィスで、浩輔は、窓の外を面白そうに眺めている藤堂を、「はあ」と情けなさそうな顔でみやった。
寒い上に台風並みの強風で、煽られて転倒した怪我人も出たほどだったという。
浩輔もオフィスに辿り着くまでに、いきなり強風に見舞われてうっかり階段から落っこちそうになった
「ふう、寒いのなんのって、オフィスの中は天国だね」
もこもこ状態の藤堂はようやくマフラーを取り、ツイードのオーバーコートを脱いでポールハンガーにかけると、サーバーからコーヒーを持ってきて椅子に座りしな、一口飲んで大きく息をつく。
「ほっとするってこのことだよ、全く」
河崎と三浦は朝から出張で、今日も浩輔は一人、オフィスで黙々と仕事をしていた。
「ベリスキーのやつ?」
藤堂が浩輔のパソコンの画面を覗き込む。
「え、ええ。こないだのダメだしされちゃって、やり直してるとこです」
「フーン、こないだのって、俺はいいと思ったけどね」
「担当の阿部さんには通用しないみたいですよ」
「あれ、担当って、藤本さんじゃなかった?」
問われて浩輔は一瞬黙り込む。
藤堂が侮れないと思うのはこんな時である。
浩輔の仕事の担当者の名前まで、しっかり把握している。
ジャスト・エージェンシー時代から引き続き浩輔が広告デザインの仕事をしているベリスキーは大手ペットフード会社の、キャットフードのブランドである。
今回は二次元媒体のデザインだが、その広報部の担当者は、ずっと浩輔のふわふわした雰囲気を気に入ってくれていた藤本という女性だった。
それが、何でも三ヵ月という期限付きで、大阪支社へ新人研修のための講師として借し出されているのだ。
そしてその間、藤本の代わりに担当を引き継いだのが阿部という男性なのだが、藤本に紹介された初対面から、浩輔に対してあまりいい印象を持っていない感じだった。
案の定、一昨日雑誌媒体用のデザインを持っていったところ、ダメだしされたというわけだ。
「藤本さん、三カ月大阪支社に出向なんです」
「おやおや」
ダメだしというより冷たく突き放された気がするのは、多分、浩輔の気のせいではないだろう。
あまりにもあからさまだった。
「フーン、この程度のデザインで、ゴーサインが出ると思われているとは、うちも見くびられたもんだな」
吐き捨てるように阿部は言った。
一見すると若くて身長も高そうで、結構なイケメンだが、表情に温かさが感じられない。
むしろ最初会った時、睨まれたかと思ったくらいだ。
怒鳴り散らされるのには、上司の河崎で、もういやというほど免疫はあるのだが、「猶予は三日だな。それ以上は待てないから」と辛らつな言葉を返され、浩輔はトボトボと帰るしかなかった。
やっぱり、俺がデザイナーなんて、すごく甘く見てたのかな。
古巣のジャストエージェンシーでは、佐々木という、あまりにも優しい上司のもとで、ぬくぬくとしていたから、思いあがっていたのかもしれない。
next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
