第一、デザイン部でも俺以外は芸大の院を出た佐々木さんを筆頭に芸大や美大、或いは名のある美術学校を出た者ばかりだったし。
浩輔がはあ、とため息をついた時、藤堂のポケットで携帯が鳴った。
「はい、ああ、お世話様です。ええ、今からですか? 大丈夫ですよ、では」
どうやら藤堂も出かけるようだ。
「ま、あんまりコンを詰めない方がいいよ、浩輔ちゃん」
にっこり笑うと、藤堂はまたコートにマフラーを巻いて、オフィスを出て行った。
「行ってらっしゃい」
これでまた浩輔一人になった。
プラグインはまだ船出して半年ちょっと、社員四人の広告代理店である。
全て大手広告代理店英報堂の元社員で、トップAEとして知られた代表の河崎、マーケティングに極めて強い藤堂、河崎の部下だった三浦の三人はエリートと呼ばれる人種である。
浩輔の場合は、三浦より前に河崎の部下だったことがあるが二年足らずで英報堂を辞め、イタリアで今までの経験から興味を持った美術学校に行ったという経歴だけで、帰国してからダメもとでデザイナー募集をしていたジャストエージェンシーの面接を受けた。
面接したチーフデザイナーの佐々木が浩輔の作品を見て、じゃあ、今日から君のデスクはここね、と言われ、なんとデザイナーとして入社してしまったというわけだ。
約二年ほど佐々木のもとで仕事をした後、プラグインを興すにあたって河崎に呼ばれ、今もデザイナーという肩書きでここにいるのだが。
ベリスキーの仕事は元々佐々木の仕事だったが、アシスタントをしているうちに自分でも小さなデザインを任されるようになり、やがて佐々木からこの仕事を引き継いだ。
ベリスキーの担当者、藤本にも気に入られていたので、この仕事もジャストエージェンシーから持ってきたのである。
業界では天才クリエイターとして名を知られた佐々木は、浩輔がプラグインに移ってからも仕事上では提携しているし、未だに浩輔にとっては師と仰ぐ存在だ。
今回のダメだしで、プロなんだからと自分に言い聞かせながら、ああでもないこうでもないと頭を捻り捻り、デザインをいじくっていた浩輔だが、どうにもうまく行かない。
いっそ佐々木にアドバイスをもらおうかと何度も思ったものの、その度にいろいろと世話になりながら、会社を辞める時も快く送り出してくれた佐々木にまた迷惑をかけるわけにはいかないと、自分を鼓舞しながら、浩輔はデザインと格闘していた。
「うわ、もうこんな時間」
時刻は既に夜の八時を回ろうとしていた。
河崎は今夜も泊まりだから、食事を作る心配はいらないが。
浩輔は夏から河崎のマンションで暮らしている。
居候の身で何もしないわけにはいかないと、せめて食事くらいは作ろうとこの半年がんばってきたお陰で、ごく普通のレシピをいくつか会得した。
掃除や洗濯などは河崎が週一回、通いのハウスキーパーを頼んでいるのだが、お掃除ロボットは毎日動かすし、自分のものや河崎のものもできるものは洗濯をしたりしている。
だが、河崎がいない時は食事を作るのにも張り合いがないので、大概弁当を買って帰るくらいだ。
今夜はこのままやっていてもダメそうだし、藤堂も帰ってくることはなさそうなので、浩輔はオフィスを閉めて外に出た。
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