いつだってこれだよ5

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 翌日、浩輔にしては珍しくオフィスに着いたのが十時ギリギリだった。
 昨夜、風呂に入ってからまたパソコンに向かったのはいいが、うっかり眠ってしまったのだ。
 気がつくともういつも家を出る時間だった。
 慌てて着替えて地下鉄に飛び乗ってから、少し頭がぼんやりしているのに気がついた。
「ちょっと風邪っぽいかも」
 あとでオフィスにある薬を飲んでおこうと思いながら、灯りをつけた途端、電話が鳴った。
「はい、プラグインでございます。あ、直ちゃん、おはよう」
 直子はジャストエージェンシーの営業にいる女の子で、浩輔や佐々木と仲がいい。
 気が知れた直子だったからまだよかったようなものの、みんな出払っているから、浩輔が来ないと会社が機能しない。
 気を引き締めないといけないな。
 基本的にこのオフィスでは自分の仕事は見積もりから全て自分の責任でやることになっている。
 何せたった四人の会社だ、デザイナーだからといって、ジャストエージェンシー時代のように、見積書作成をお願いしたり、客が来てもお茶を出してくれるような女の子はいないのだ。
 最初はさすがに仕事も少なく、どうなることかと思った浩輔だが、最近はみんな忙しく飛び回っている。
 浩輔もベリスキー以外の仕事は、たまにジャストエージェンシーの直子経由で佐々木が小さな仕事を回してくれるくらいだったが、細々した仕事とはいえ藤堂から初めてプラグインとして仕事が回ってきた時は嬉しかった。
 ここにきて河崎と三浦、藤堂と浩輔が組んでという図式が多くなってきた。
「ほい、ベーグルのサンドイッチ」
 昼近くになってフラリとオフィスに戻ってきた藤堂が、紙袋を浩輔のパソコンの横に置く。
「あ、ありがとうございます」
 画面をじっと睨みつけていた浩輔は、顔を上げて微笑んだ。
「おんや、お目目がウサギになってるよ、浩輔ちゃん。たかだか二、三日の出張じゃないか、そんなに河崎が恋しかった?」
「違いますよぉ!」
 コーヒーも持ってきてくれた藤堂に、浩輔ははっきりと異議を唱える。
「夕べ、うたた寝しちゃって、ちょっと風邪気味みたいで」
「そりゃ、いけないな。今日はもう帰って休んだら?」
「そういうわけには……三日って期限切られてて、明日にはこれ持って行かないと」
 ベーグルを食べてコーヒーを少し飲むと、浩輔はまた画面に向かった。
 藤堂はコーヒーを持ったまま、そんな浩輔を見ていたが、傍らにあるダメ出しされたというデザインを手に取った。
「これ? まあ、人によって主観は違うとは思うけど。担当の阿部さん、ダメ出しの理由は?」
 改めて聞かれた浩輔は、え、と手をとめた。
「えっと、この程度のデザインで、ゴーサインが出ると思われているとは、うちも見くびられたもんだな、って」
「はあ? 具体的には?」
「具体的には、何も……」
「浩輔ちゃん、またしっかり営業並みの説明したんだろ?」
「え? ま、まあ、営業並みかどうかは………」
 うーん、と藤堂はデザインを見つめたまま、しばし黙り込んだ。
「浩輔ちゃんに、佐々木さん並みのアイディアを求めようとは思わないが、俺が担当ならOK出してるけどな。シンプルでわかりやすくて、猫が可愛い」
「ありがとうございます。でも、結局はクライアント次第ですからね~」
「佐々木さんのご意見伺ってみたら?」
 浩輔は、それは、と口ごもる。

 


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