いつだってこれだよ6

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「俺もちょっとは頭を過ぎったんですけど、今回は自分で何とかやってみようかと」
 浩輔がぼそぼそ言うと藤堂は顔をほころばせた。
「えらいねぇ、浩輔ちゃん。がんばれ!」
 頭を撫で撫でされて、「ちょっと、ガキじゃありませんてば!」と浩輔は抗議する。
「風邪を悪化させないようにほどほどにね」
 藤堂はそう言うと、コートの上からマフラーで口元まで覆い、相変わらず北風が吹きすさぶ街へと出て行った。
 
 
 
 
 翌日も空はどんよりとして、今にも何か降ってきそうな顔をしていた。
 午前十一時、浩輔は明け方まで四苦八苦したデザインを携えてベリスキーを訪ねた。
 打ち合わせ用のテーブルでしばし待っていると、いつにも増して面白くなさそうな顔で阿部が現れた。
「お世話になっております。よろしくお願いいたします」
 浩輔は立ち上がってちょっと頭を下げる。
 阿部はにこりともせずに向かいに座って、浩輔の持ってきたデザインを見た。
「これが西口さんの渾身のデザインですか」
 全体を一瞥しただけで、阿部は言った。
「言いましたよね? うちを見くびらないで欲しいって」
 吐き捨てるように続けた阿部には、何となくだが浩輔はどんなデザインを見せても同じような気がした。
「あの、すみません、具体的にどのあたりがまずいんでしょうか」
 藤堂の言葉を思い出して、浩輔は口にした。
「どのあたりって、西口さん、そんなこともわからないんですか?」
 それを聞くとこれはやはり、始めから浩輔のデザインは採用しない方向で考えているに違いないと浩輔は思う。
 クライアントが決定することだからここでこの仕事を失うことになっても、それは仕方のないことだが、ただはいそうですか、では帰れない。
 ダメならダメで仕方がないが、具体的なところを聞かせてほしいと、浩輔が口を開きかけた時、ドアが開いて二人の男が入ってきた。
「いや、今回のプロジェクト、さすが、英報堂さんだと上にも評判いいんですよ」
「それはありがとうございます」
 英報堂、というキーワードについ反応して目をやると、ニコニコ顔の広報部長と一緒に出てきたのは英報堂の第二営業部にいた同期のAEだった。
「おや、西口さん、ベリスキーですか」
 浩輔と目が合うと、部長はにっこりと笑った。
「はい、お世話になっております」
 浩輔が立ち上がってちょっと頭を下げると、部長はテーブルの上の浩輔のデザインに目をやった。
「ほう、今回のデザイン、なかなか面白いじゃないですか。いつもニャンコが可愛いって、うちの部署でも西口さんのファンが多いんですよ」
 思いがけない言葉に、浩輔は目を見張る。
「ありがとうございます」
「これからもよろしく頼みますよ」
「はいっ」
 思わず気合を入れて返事をして阿部に向き直ると、阿部は苦々しそうに、フンと鼻で笑った。
「まあ、今日のところはこれでよしとします。また連絡します」
 不機嫌そうな顔を変えようともせずそう言うと阿部は立ち上がった。
「あ、はい、よろしくお願いします」
 部長がじゃあよろしく、と英報堂のAEに言って自分の部署へと戻っていくのを見計らって、浩輔は部署を出た。
 すると先に部署を出ていたそのAEが浩輔に声をかけた。
「西口だろ? 河崎さんとこにいた。俺、長谷川だよ、同期の」
「あ、ああ、久しぶり」
 実は元の会社の人間にはあまり顔を合わせたくなかった浩輔は引き気味だ。
「驚いたな、会社辞めたのは知ってたけど、まさかトップAEからデザイナーになってるとは」
 長谷川の言葉に浩輔は苦笑いする。

 


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