「何がトップAEだよ、俺なんか」
「なーに言ってんだよ、あの河崎さんの下で二年もいたんだろ? 尊敬に値するって」
自嘲気味な浩輔に、長谷川は感心したように言う。
「やめてくれよ。お前こそ、すっかりエリートって感じじゃん」
「またまた~」
長谷川は明るく、物事をはっきり言う性格で、研修の頃から目立っていた。
「で、今どこにいるんだ?」
「プラグインっていう……」
「え?! まさか河崎藤堂三浦エリート揃い踏みのあの、プラグイン? 何だ、そっか、会社辞めたのって、そのためだったのか」
「い……や、そういうわけでは……」
本当はいろいろあってのことなのだが、と思いつつ浩輔は苦笑する。
その時、二人の傍を阿部が通り過ぎた。
浩輔はあっと、頭をちょっと下げたが、チラリと目があった阿部はやはり好意的とはいえない視線を向け、ふいと顔をそらして行ってしまった。
「今度、どこかで飲もうぜ?」
会社の外まで一緒に出ると、長谷川は、じゃな、と笑い、颯爽とタクシーに乗り込んで走り去った。
「なんか、自信に満ち溢れているって言うか……」
オフィスに戻った浩輔は、帰ってきた藤堂に長谷川の話をして、ポツリと口にする。
「長谷川か、知ってる知ってる。二課のホープ、いや、今やもうトップか。なかなかいいやつだよ。そうか、浩輔ちゃんの同期か」
藤堂は頷きながら、手にしたコーヒーを一つ浩輔の前に置いた。
「できるやつって違いますよね~」
「それって誰ができないって言ってるわけ?」
「またそういう意地悪なこと言う、俺ってほんと何でも半端だし……」
阿部のきつい視線がまた脳裏に浮かぶ。
「それは違うだろ? 浩輔ちゃんの場合は、むしろ二刀流、なかなか誰にもまねできることじゃないよ」
それでもやっぱりこれでいいのかと、阿部の対応に自分でもわからなくなっていた浩輔は首を傾げる。
「俺の目を信用してもらえれば、こないだのデザインでダメ出しってのは、担当の目がおかしいってことだよ。浩輔ちゃん、その阿部ってのにいろいろ言われてへこんでるだけじゃないの?」
「はあ、ありがとうございます。いや、怒鳴られるのには免疫あるつもりなんですけどね~」
ハハハと空笑いして浩輔はコーヒーを飲む。
「でも気のせいじゃなく、阿部さん、俺のこと煙たいって感じで、デザインも部長が通りかからなければ、またつき返されてたか、或いは仕事自体ボツってた気がする」
「それは由々しい状況じゃないか。浩輔ちゃん、阿部ってやつに何か恨みをかっている?」
「わけないですよ、だって、藤本さんに紹介されるまで会ったこともなかったんだから。わけわかんないっていうか」
浩輔ははあ、と大きな溜息をつく。
「だとすると、一体何だろう? どんな結果にも理由は必ずあるからね」
うーん、と藤堂が考え出したところで、河崎と三浦が帰ってきた。
「お帰りなさい」
浩輔が立ち上がろうとすると、「何か、目が赤いよ? 無理したんだろう、お茶は俺が入れるよ」と藤堂が制してキッチンに立った。
「お疲れ。南国から来たらこっちは寒いだろ」
コートを取ってデスクの椅子に腰を降ろした河崎と三浦に、藤堂がコーヒーを持って行った。
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