西高東低6

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「そういや、啓太のやつ、夕べも俺が数学テンパってる時電話かけてきやがって、暇でゴロゴロしてたら、おふくろさんにどやしつけられて、一日買い物つきあわされたとかって」
「代々木だっけ? デザイン学校。俺のとこにも一昨日電話あった」
 佑人の言葉を聞きつけて、「あのやろ、こっちが受験生ってことちっともわかってねぇな」と力が舌打ちする。
「家にいても面白くないし、きっと寂しいんだよ」
 きっとみんなと会いたがってるのだと佑人は思う。
 そもそもこの仲間は啓太が集めたようなものなのだ。
「ってか、卒業旅行早く行きたいとか、能天気なこと言いやがって」
 東山は、まあでも、啓太がいると何か和むんだよな、とつけ加える。
「だったら坂本に電話しろって言っとけ。能天気同士、話会うんじゃねぇか」
 苛つきながら力が言い放った。
 駅まで来ると、東山は急行のホームへ、力と佑人は各停のホームへと向かう。
「やっぱさ、こんな風に一緒に帰れるの、あと少しだろ? ちょっと寂しいよ」
 電車が動き出してから、窓の外に目を向けながら、啓太のことを思い出して佑人はつい、そんなことを口にした。
 すると力は佑人の両腕をガッシと掴み、いきなりもう少しで唇が触れそうに力の顔が近づいた。
「……っ力!」
 びっくりして、佑人は力を凝視する。
「………急に、押し倒したくなるようなことを言うな」
 耳元で低く囁いた力の言葉は、おそらく誰にも聞かれてはいないだろうけど。
 力は耳まで赤く染まった佑人からようやく腕を離した。
「明日、試験頑張れな」
 佑人の降りる駅でドアが開くと、佑人は電車の中の力に声をかけた。
「おう」
 そう答える力の前で、ドアが閉まった。
 電車が動き出してもじっと佑人を見つめている力の視線に、佑人は少しだけ涙腺が緩くなった。
 
 
 校内は朝から少しざわついていた。
 二月に入ってからは三年生は補講を受ける生徒がチラホラいるくらいだったのが、今日は既に就職や大学合格が決まって暇を持て余している生徒などが部室に顔を出したりしている。
 このざわつきの原因はバレンタインデーという、山本力曰く、チョコレート会社の企みである。
「お、山本、やっぱお出ましか。わざわざチョコもらいに?」
 力がやってきたのは十一時になろうという時間だったが、ちょうど玄関の前で出くわした甲本がニヤニヤと揶揄する。
「るせぇな。てめぇは何だよ」
 靴箱を開けると、大小さまざまカラフルなラッピングが雪崩落ちそうになっている。
 力はそれらを除けて上履きを取り出したが、やはりいくつかは床に落下した。
「さっすがぁ、ワルい男ほどモテるってなぁ」
 甲本が声高に言う。
「ほしけりゃ、くれてやるぜ」
「またまた、そういう冷酷なヤツだよ、お前は。ま、本命以外いらないってのならわからないでもないけどな」
 力はそれには答えず、黙って落ちたチョコの包みを拾うとまた靴箱の中に突っ込んだ。
「気軽にクラス委員なんか引き受けちまったら、最後まで何だかだとこき使われてんだよ」
 甲本は力の後ろから階段を上がりながら、そう嫌そうでもなく言った。
「今日はアルバムが上がったって、呼び出されてよ」
「そら、ご苦労なこった」
「ちぇ、他人事みたく言いやがって」
 力がガラリと教室の後ろのドアを開けると、既に登校しているクラスメイトが振り返った。

 


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