エントランスあたりで、先ほどの集団の中から「へ、うそ」と言う声と、先ほどいちゃもんをつけてきた男が、驚いたような顔で工藤の方を一度振り返るのが、良太にも見えた。
男たちが姿を消すと、従業員も客もホテル中がほっと胸を撫で下ろしたようで、空気が和らいだ。
工藤は前にもまして苦々しい顔で、不安そうに待っているアスカや小笠原の待つエレベーターに乗りこんだ。
工藤につっかかってきた男が工藤を振り返ったその表情から、良太は、彼らがホテルを出て行ったのは、工藤がどういう存在かを確認したか、或いは彼らのボスが知っていたからではないのか、という気がした。
「び……っくりしたー あいつら、まんまヤクザだろ?」
小笠原がやっと声を出す。
「それにしても、良太って、すんげー、いい度胸してるな、お前」
小笠原が感心したように言うのに対して工藤がかなり怒っているのがわかるだけに、良太はひきつった笑いを返す。
部屋のあるフロアで、エレベーターが停まり、それぞれが部屋へと向かう。
「良太、ちょっと来い」
来たか、と良太は思う。
「あんなやつらの相手をするなといったはずだ」
工藤の部屋に入ると、案の定工藤の苦言が待っていた。
「第一、俺の前に、わざわざ何で出るんだ、ばかやろう!」
「だって………!」
あんたが相手をしたら、もっと問題になるに決まっているから。
「俺のことにお前が首を突っ込むな」
良太はぐっと言葉を飲み込む。
良太の心も、工藤にはわかりすぎるほどわかっていた。
だが、それを甘んじて受けるわけには行かないのだ。
「わかったら、行け!」
「はい、すみませんでした…」
良太は工藤の部屋を飛び出した。
チクショー!
良太は唇を噛み締める。
だって、あんたを守りたかったんだ。
俺でできるもんならって。
チクショー!
俺のことにお前が首を突っ込むな、とは、すなわち、お前には関係ないことだ、と言ってるのも同じだ。
結局、自分と工藤の間は、計り知れない、深い溝があるのだ。
哀しくてやり切れない。
だが、良太には、そんな想いをどうすることもできないのだった。
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