いざ出陣、とばかりに、部屋に戻ろうとした青山プロダクション一行の前に、今まさにエントランスからホテルに入ってこようとしている、黒ずくめの集団があった。
良太はふと、いやな予感がした。
工藤が中山組組長の甥であることは、どうにもできないしがらみなのだが、戸籍上は互いに縁を切っている。
組の方も前の組長の意向もあり、青山プロダクションと組の者がほんの少しでも接近するようなことはないはずである。
工藤のヤクザ嫌いはかなりのものだし、ニュースなどで少しでもその手の関係の報道がされようものなら、工藤は過剰に反応する。
それをこれまでの付き合いで良太はよくわかっていた。
例えば、社員の面接の折、あえて組長の甥だなどと話をするのは、自分の中のヤクザの血統を嫌う故の自虐行為に違いない。
そんな工藤の目の先を黒服の男たちが数人横切っていく。
後ろの方には和服姿の年配の男がいる。
と、工藤と男たちの視線が交錯し、工藤は眉を顰めた。
「早く、部屋に戻ろう」
不穏な空気を感じた秋山に促されて、小笠原とアスカはエレベーターに向かう。
「おい、お前」
明らかにこちらを見て、先導して歩いていた男の一人が、声をかける。
工藤の後ろにぴったりくっついていた良太は、はっとして、相手を見た。
工藤はそれでも足を止めず、さっさと歩こうとする。
「待てってんだよ、てめー、聞こえねーのか? そこの、グレイの上着のてめーだよ」
工藤は足を止めて振り返ると、ジロリ、と声を荒げている男を睨みつける。
「何か俺たちに文句でもあるのか? え? あるんなら言ってみろよ」
男が凄んで言いがかりをつける。
「別に何も言った覚えはないが」
ロビーがざわめき始めた。
他の客も、息を呑んで男たちのようすを見守っている。
無視して通り過ぎようとする工藤と良太を、男が追ってきた。
「その目がものを言ってんだよ、俺らが気にいらねーってな」
今にも工藤に掴みかかろうとした男の前に立ちはだかったのは良太だ。
「自意識過剰なんじゃないんですか?」
そのまま後ろに押し戻すと、男は足元をもつれさせた。
「何だとー? このガキ! いい気になるなよ」
男は余計にかっかと頭に血が上ったらしい。
「良太、相手になるな。行くぞ」
工藤がはっきりと言った。
「きさま、待てい! おちょくりやがって」
「いちゃもんつけてきたのはあんたでしょう?」
あくまでも工藤に向かおうとする男に、良太が逆に食って掛かる。
「なにい?」
「良太、やめろと言ってるだろ」
工藤は自分の前にたちはだかろうとする良太の腕を引いた。
脇から助け舟を出したのは秋山だった。
「警察を呼びましょうか、工藤さん」
「それにはおよばんだろ。せっかく骨休めにこられているお前らのボスも、お前がつまらんことでつかまったりしたら、面白くないだろうし」
冷ややかに工藤は男を見据えた。
「なんだとぉ? おとなしく聞いてりゃ…」
「岩佐」
だが、男を制したのは、いかにも若頭か、という風情の男だった。
「いい加減にしておけ。騒ぎを起こして申し訳ないから、オヤジさんが別のホテルに変えるそうだ」
「え、でも兄貴……」
「いいから、来い」
彼らは、急に、ホテルに滞在することそのものをやめたらしく、またぞろ、ホテルを出て行った。
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