朝、起きてみると、体中が痛い。
「夕べ、調子に乗りすぎたかな~」
良太はぼそりとつぶやいた。
それより、工藤には昨日フロントで会って以来顔を見ていない。
顔を洗っていると、部屋の電話が鳴った。
「はい! あ、何だ、お前か」
慌てて電話に駆け寄るが、聞こえてきた声に良太はがっくりする。
「何だよ、誰か待ってたみたいじゃん」
その通りなのだが、それは言わないでおく。
小笠原は仕事の時とは別人のように、朝から元気だ。
「メシ、行くぜ。早くしろよ」
まったく、こんなつもりではなかったのに。
何でまた小笠原やアスカのおもりなんだ。
どう考えても不本意な状況に、良太は心の中でブツブツ言いながら、ロビーに降りる。
昨日も小笠原を見て、女性客が少しは騒いでいたが、この辺りでは老舗のホテルである、チャラチャラした若い客は少ない。
ゲレンデでは、まさかそこに小笠原やアスカがいるとは思ってもみないのだろう、結構な人気を誇る小笠原も、さほど大騒ぎになることはなかった。
レストランに着くと、「こっちこっち」と手招きする、芸能人らしからぬ小笠原の所業に、良太はため息をひとつ。
あんまり目立つことをやっていると、そのうちかぎつけられるぞ。
良太の目の示唆するところも、小笠原には効果がないらしい。
傍のテーブルに秋山と並んで工藤の顔を認めると、良太は胸をほっと撫で下ろした。
「おはようございます。あれ、ヤギさんは?」
まず工藤たちに挨拶をする。
「一足先に帰った」
「夕べはほんとご機嫌でしたね」
秋山が笑う。
どうせなら、そっちの輪に入りたかった、とはまた良太の心の声だ。
子どものようにパンパンと隣の椅子を叩いて、良太を呼ぶ小笠原に、良太は仕方なくそっちのテーブルについた。
「今日はどこ行く?」
「じゃ、あそこ、行ってみない?」
アスカと小笠原はすっかり意気投合している。
「我々も、若いもんに負けずに、今日は滑りますか?」
食事があらかた終わってコーヒーになった頃、秋山が言った。
「やーだ、秋山さん、じじむさい! 若いもんとか言っちゃって」
アスカが秋山を振り返って揶揄した。
「工藤さんに、かえって失礼っすよねー」
小笠原が、わざわざ工藤を怒らせるような科白をはく。
「お前ら、そんな口きけるのも今のうちだぞ。俺はどうでも、工藤さんのスキーはプロ級なんだからな」
秋山が笑う。
「へ、そうなんですか?」
良太は工藤をあらためて見る。
あらかたスポーツはこなす工藤だから、それも不思議ではない。
だが、考えれば工藤と一緒に何かをやるというのも、良太が会社に入って初めてのことだ。
「ボードしかできないやつには、スキーの面白さはわからないかもしれないが」
工藤の一言に、小笠原が立ち上がる。
「わかったよ、スキー、やってやろうじゃん!」
「タレントが無理して、足でも折ったらそれまでだぞ」
「俺がそんなヘマするわきゃないだろ」
二人の目の間に火花が散ったかどうか。
工藤も、負けず嫌いだからな~
それこそ、オヤジのくせに骨折でもしなければいいが、と良太の方が心配になってしまう。
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