桜の頃 1

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「なあ、研二、こっち来ぃひんかった?」

 ドアを開けると、集まっていた柔道部の生徒の目が一斉に千雪に向けられる。
「いえ、黒岩先輩はまだこちらには」
 一際背の高い生徒がはっきりとした低い声で答えた。
「あとで部室に寄る言うてたから、ここやと思たんやけどな。すまん、邪魔したな」
 千雪がそう言ってドアを閉めようとすると、「小林先輩!」と野太い声が引きとめた。
「え?」
「ご卒業おめでとうございます」
 全国大会まで行ったという、体重が千雪の倍もありそうな生徒が言うと、他の全員が「おめでとうございます」と頭を下げる。
「どうも、おおきに」
 自分よりも大柄な生徒たちに頭を下げられて、千雪はちょっと圧倒される。
「ひょっとしたら、黒岩先輩、あそこやないですか?」
「あそこ、て?」
「裏手のグラウンドに古い桜の大木があって…」
「ああ、そうか、わかった。おおき」
 ギシギシいう古いドアを閉めると、千雪は裏手のグラウンドへ足を向けた。
 卒業式は十時からだから、まだ一時間以上はある。
 だから写真を撮ろうと父親のカメラを持ってきたのだが、とっくに登校してるはずの研二が教室に行ってもいないので千雪は探していた。


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