「研二、祝い酒や、何飲む? ウイスキーとかブランデーとかもあるし? せや、これ開けよ、京助、カミュ?」
シンクにグラスを持っていき、傍らに並べてあるブランデーのボトルを見ながらグラスを洗おうとして、千雪の手がすべり、他のグラスとぶつかって割れた。
「いってぇ………うわ、血ぃ出た」
見る見る指先から溢れる血に、千雪は思わず目をつぶる。
「ったく、何やってんだ、お前は。救急箱、どこだ?」
すぐに京助がやってきて蛇口を捻り、千雪の手を流水で洗い流す。
「電話台の下の引き出し……」
京助が振り返ると、研二が既に救急箱を持って立っていた。
「ああ、悪いな」
京助は救急箱から消毒薬とカットバンを取り出した。
「それ、古いんちゃう? 俺、ここ何年も中身見てないで」
「新しいぞ」
京助は消毒薬のボトルを持ち上げて消費期限を確かめる。
「ほな、倉永さんが変えといてくれたんかな。うわ、京助、まだ、血ぃ止まらん」
「相変わらず、千雪は血ぃ見るん怖いんか」
子供のように血を見て目をつむり、喚きまくる千雪を周りが面白がって囃したてる。
「お前、確か、ミステリー作家とかやなかったか?」
「うるさい、ほっとけ! 嫌いなもんは嫌いなんや」
「たかだか五ミリの傷だ、騒ぐほどじゃない。大体、珍しくシンクに立ったりするからだ、これで、よし!」
カットバンを巻いた指はまだ赤く滲んでいる。
「京助、まだ、止まらんで」
「ほっときゃ、そのうち止まる。お前はシンクに近づかんでいいからあっちに行っとけ」
「ちぇ、命令しよって」
救急箱を閉じて立ち上がった京助は、そこに突っ立っている研二の目とまともに出くわした。
その目の中に、京助は確かに剣呑なものを感じた。
「もう、いいよ、研二くん、君も座ってて。ブランデーは持ってくから」
