あれは確か、綾小路京助…?
先頃、スーパーモデルとのゴシップでマスコミを騒がせているイケメンセレブである。
親の財の上に胡坐をかいて遊びまわる連中など、工藤はやくざと政治家の次に嫌いだった。
大方、例のモデルの件で別の女に三行半を突きつけられたというところか、と工藤は勝手に筋書きを立てたが、ざまあみろくらいで擦れ違った男には興味などない。
ただ、そのイケメンセレブを振ったというなかなか骨のある女のチラりと垣間見たハッとするほどの美貌が、散々美人女優など見慣れているはずの工藤の興味を引いた。
女が路地を入ったところのバーに入って行くのを見ると、工藤の足は勝手にその後に続いた。
翌朝遠出をする予定があり、近くのパーキングに車を置いていた工藤は、飲むつもりはなかったものの、カウンターにいる女から少し離れた止まり木でバカルディを注文した。
しばらく観察していると、コートも脱がないままの女はおそらくそう飲みなれていないと思われる酒をロックで二杯ほど立て続けに空けた。
男と別れて泣いているというより、怒っているようなようすである。
それにしてもちらほらいる客もバーテンダーですらつい見入るほど、その研ぎ澄まされた氷のような美しさは際立っている。
ハーフかクォーター、背が高くスレンダーなプロポーションといい、新人モデルか何かだろうか、少なくとも工藤の記憶にはこんな女の存在はインプットされていない。
俄然、興味を持った工藤は、女が飲んでいる酒よりずっと美味いはずの上等のウイスキーを女へとバーテンダーに頼んだ。
バーテンダーが目の前にグラスを置いた時、ようやく女が工藤を振り返った。
まともに目が合い、おそらく噂になったスーパーモデルよりもずっと上質のその美貌の主を捨てがたかっただろう綾小路京助の間抜け面を工藤は少し哀れんだ。
「えらく飛ばしているな、お嬢さん」
一瞬、きつい睨みを受けながら、工藤は言った。
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