宮島教授は工藤を擁護するような言い方をしたが、佐久間の話はかなり脚色されている気もしないでもないものの、全てが嘘ではないかもしれない。
「せやから、あきませんよ、映画にするとかいうても、業界のやり手の極道に騙されるのがオチですて」
業界のやり手の極道、などという滅茶苦茶な佐久間の進言は置いても、映画化されたものが原作とは似ても似つかぬものだったとか、意図するところが作者とはまるで違うものになっている、というものを観たこともある。
いずれにせよ自分の手を離れてしまえば、原作とは全く別の物になるという考えは千雪の中では変わらない。
その後一度だけ、半月ほど前だったか、工藤からその件で電話をもらったが、千雪がやはり断るというと、残念です、と言って工藤は引き下がった。
ただ、工藤が何で自分の小説を選んだのか、ということは聞いてみたかった気がしていた。
千雪の頭の中では瞬時にそれらのことが思い出されたが、今は仕事の関係者と話をする気にはなれなかった。
最後の一杯を飲み干したところで一気に酔いが回ってきたので、千雪はフラリと立ち上がるが、バッグを忘れてまた戻り、レジで支払いを済ませるとドアを押した。
通りに出てタクシーを拾わなくてはと、千雪はフラフラと歩いていた。
さほど酒に強いというわけではないから、さすがに強い酒を四杯立て続けに空けたのは効いたらしい。
「おい、大丈夫か」
しっかり歩いているつもりが、電柱にぶつかりそうになったところを、後ろから来た男に抱えられた。
「大丈夫……」
「じゃないようだな」
顔を上げた千雪に、男の眼差しが強く注がれる。
え………こいつ……工藤………?
そうや、最初に会うた時も、佐久間やないけど、あまり近づかない方がいい思たんや……。
眼差しの冷たさにどこか危うい匂いがした。
…やから、関わり合わん方がええて………
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