だが、工藤は腕力と身体のデカさで千雪を押さえつけて動きを阻んだ。
「威勢がいいのは嫌いじゃない」
「何ゆうてんのや、離せや! このボケ! ドアホ!」
「あのタラシをあそこまで入れ込ませるとはな」
ニヤリと笑った工藤を睨みつけ、千雪は身体を硬直させた。
「綾小路京助、スーパーモデルとのランデブーはいいが、可愛い坊やとの修羅場なんざ、ちょっとスキャンダラスだよな」
あんのぉ、アホンダラ~!! 往来なんかで……
京助とのやりとりを見られたのだと、千雪は酔いで判断力が鈍った頭でも理解する。
「ヤツとは別れたんだろ? だったら、俺にしておけよ」
別れという言葉と同時に鈍い痛みを伴った負の感情が千雪の心に雪崩れ込んでくる。
そや、京助とは終わりにしたんやな……
漠然とした空虚さを抱え、急激に力が抜けていく。
苦しそうや……俺……
違う、こいつ……? 何でこいつが苦しそうな目ぇしてんのや……
ほとんど見も知らぬ男に力で蹂躙されながら、千雪は何もかもがもうどうでもいいと思えた。
手放しかけた意識の中で、桜の花を背に微笑んでいる研二を見た気がした。
あ………研二……
微笑は風に舞う桜の花びらに紛れて闇に消えていく。
千雪の閉じた眦からこぼれた涙が頬を伝って落ちた。
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