作務衣を着た目つきはやはり只者ではない白髪の老人が、大きなトレーにスープやサラダ、パン、オムレツ、それにお茶のセットを載せている。
「ここはどこやね、おっさん」
見ず知らずの人に対しての礼儀ぐらいは無論心得ているが、工藤の部下だと思うと、千雪はついぞんざいな言い方をした。
老人は千雪より少しばかり目線が下がる程度だろうか、一瞬、ジロリと千雪を睨むように見た。
「軽井沢です。夕べ酔ってなさったから、覚えてないですかい」
持ってきた食事をテーブルに並べながら、老人は言った。
そういえば、と千雪は宮島教授の話を思い出した。
養父母亡き後、工藤を育てたいう、ムショ帰りのおっさんてこいつか。
「食事終わったら呼んで下さい」
「ヨーグルト!」
「はぁ?」
再び老人は千雪を振り返る。
「サラダ、ヨーグルトがないと食われへん」
ちょっと間があったが、老人は「わかりました」と言って部屋を出て行った。
もっとヤクザらしく凄みを利かせた返事を期待してわざと難癖をつけてみた千雪だが、ちょっと肩透かしを食らった。
「にしても、またここも古いけどゴージャスな別荘やな。北海道の京助んとこも、もちょいおったら探検しがいがあったんやけど、ここも負けてないで。家具も丁寧に使うてあるし」
電話器だけは最近のもので浮いているが、椅子やテーブル、キャビネットやサイドボードの類も全てシックなダークブラウンで統一されたアンティークだ。
壁に掛けられたビュッフェの油彩までが妙にしっくりと収まっている。
そこへ妖しいヤクザ者の怪老とくれば、何やらミステリーのひとつくらい書けそうな気さえしてくる。
「あのおっさん、背中に彫り物でもあれば、おもろいんやけどな」
そんなことを呟いた時だ。
「ヨーグルトです」
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