花のふる日は 34

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 だが別れたとはいえその後も仕事ではよく顔を合わせ、周りの気遣いも何のその、ああいえばこういう、工藤とただ一人互角に対峙できる貴重な人材なのだ。
 だから、工藤に到底たちうちできないディレクターやタレントも困った時はまず彼女にお伺いを立てる。
 しかし竹を割ったような気風のこの女優にはゴマすりは通用しない。
 そこのところをよく心得ておかないと、下手をすると工藤に怒鳴られるよりまずいことになりかねない。
「このあたりは桜なんかまだでしょ? 何をイラついているのよ!」
「るせぇんだよ! ちょっと頭冷やしてくる」
 勝気で遠慮がなく仕事ができる女。
 工藤はそんな彼女を嫌いではない。
 だがこうして、妙に人の思いを読み取ることに長けているところが、さすがの工藤も苦手なのだ。
「振られた」のも実は未だに過去に縛られている情けなさを知られたからだ。
「鬼の工藤が、聞いて呆れるわ。情けないったら、勝手にひとりでセンチメンタルしてなさい」
 ちょうど今頃、例によって荒れていた頃、ひとみはそう言って工藤を放り出した。
「振られた」後も何だかだで一緒に飲みに行くことが多いし、彼女の気風のよさ故にこうして悪友のような付き合いをしていられるのだが。
「クソッ!」
 全く情けないことこの上ない。
 工藤はそんな自分に苛立ちながら、煙草を一本吸い終えると現場に戻る。
 その後、雷がなりを潜めたからか、あるいはひとみの強烈なヘボ呼ばわりに奮起したのか、アイドル俳優はかろうじて及第点スレスレの演技をみせて、何とか撮影は終わった。
「二、三日ここで羽を伸ばしていくわ」
 四時を過ぎた頃、ホテルを出る工藤に、ひとみは言った。
 ホテルのスイートを押さえているのだという。
「これ以上羽を伸ばしてどうするんだ」
「可哀想に、仕事中毒は東京に戻るわけ? あんなとこ、人間の住むとこじゃないわね、ここと比べたら」


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