花のふる日は 35

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「だったら、永遠にここにいろよ」
「そうね、桜もこれから見頃だし。あら、高広、今頃東京に戻ると、満開の桜が出迎えてくれるんじゃない?」
 あてつけがましい台詞に送られて、工藤はホテルを出た。
 厄介な相手に知られたものだと工藤は舌打ちする。
 知られたというか、荒れていた当時の工藤への文句を散々を平造に並べ立て、ひとみが平造から聞き出したのだ。
 昔、ちょうど桜が盛りの頃、恋人に自殺されたという哀れな男の顛末を。
 以来、この時期になると感情がコントロールできなくなるという情けない話を。
 自分の情けなさを押し込め、鼓舞するために周りに怒鳴り散らし、最近ではさすがに酔って暴れるようなことはしなくなったのだが。
 バカなことをしでかした。
 工藤は大きく息をついて、車のエンジンをかけた。
 
 
 
 
 
 初めて歩く軽井沢だが、かつて何人もの文豪が歩いた地だと思うと、何やら懐かしささえ感じつつ、千雪は歩を進めた。
 父親の小林和巳もまた、故人を偲びながら軽井沢や小諸を母と訪ねたことがあると、いつだったか話してくれたことがある。
 とりあえず芭蕉の句碑があるという場所を訪ねてみることにした。
 空は晴れているがさすがに山里は空気が冷たい。
 冷たいが確かに東京辺りの空気とは違う気がして、大きく息を吸った。
 句碑は追分にあった。
 
 馬をさへ なかむる雪の あした哉
 
 きれいな句だ。
 純粋に言葉の美しさについて書こうかと漠然と千雪は思う。


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