「全く! どいつもこいつも勝手なことぬかしやがって!」
つい今しがた鈴木さんが帰って一人きりになったオフィスで、工藤は思わず喚いた。
例の事件のことは昨日オフィスに戻ってきて、鈴木さんから聞いて初めて知ったのだ。
「容疑者っていうのが、こう、ぼさぼさの頭に黒渕メガネで、ヨレヨレのジャージ? もう私、気味が悪くて……早く捕まればいいんですけど」
その人相風体が気になった工藤は、大学の宮島教授に電話を入れてみたところ、千雪が連行されたという。
「いや、ここ数日小林くんはずっと軽井沢の私の別荘で原稿書いていたんですよ」
だったら早く警察に行ってそれを証明してやってくれと宮島教授にも言われ、無論、自分でも取るものとりあえず警察に向かったのだ。
「ったく、あのガキに振り回されているな、ここんとこ」
工藤は我と我が身を嘲笑う。
魅入られたか。
容姿だけではない、結構我侭なくせに何か面白い。
あんなのが傍にいたら、あのイケメンのタラシが我を忘れるのも無理はないか。
まあ、あれで諦めるのなら、どうせ苦労知らずの御曹司だし、その程度の話、その程度のヤツってことだ。
「まあ、その方が、あの男にとってもラクな人生、順風満帆に行くだろうさ」
霞ヶ関で一人置いてきぼりをくらった男がバックミラーに映っていたのを思い出して、工藤は呟いた。
「あ、お帰りなさい、工藤さん。先ほどからお客様がお待ちになってらっしゃいます」
翌日も午後七時を過ぎてオフィスに戻った工藤を、鈴木さんが出迎えて言った。
本格的に映画製作の始動に向けて動き出した工藤は、配給会社やスポンサー回りの上、ドラマのスタジオ撮りに立会い、またしても下手な芝居を目の当たりにして怒る気も失せるほど疲れきっていた。
その工藤を待っていたという客がコートを着たままで立ち上がった。
「きさま、千雪をどこへやった!?」
こちらもイケメンを返上、明らかに憔悴しきった顔で京助が唸るように言った。
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