「離せ! 出てけ! クソドアホ! エロ魔人!」
千雪の罵倒など歯牙にもかけず、京助の手は千雪の服を剥ぎ取った。
「でかい声で騒ぐと聞こえるぜ?」
うっと千雪は口を噤む。
「いっか、聞かしてやるか、お前の可愛い声」
思わず千雪は京助の頬に平手打ちをかます。
「ざけんなや!」
「ってぇ、いい加減、素直になれよ」
使い古されたエロ臭い台詞を吐きながらも京助は手を緩めない。
あまつさえ、身体を繋がれてしまうと、千雪の唇からはもう言葉さえ出なくなる。
代わりに吐息はやがて熱を帯びて、それこそ声を上げそうになるのを抑えるのも難しくなってくる。
京助も山荘に戻るまではこんなつもりではなかったのだ。
さすがにスキーで疲れている千雪をゆっくり休ませてやるつもりでいたはずなのだが、兄の出現で頭に血が上ってしまった。
しかも千雪の抵抗に歯止めが利かなくなった。
「……くそっ! 俺のもんだからな……千雪…」
千雪の全てを支配しきれないのがもどかしい。
千雪の心の奥に、京助の手が届かない何かがあるような気がして。
確かに、イカレているな。
自嘲しながら、京助は腕の中で意識を手放した千雪を抱きしめた。
翌日の夕方、紫紀は仕事で呼び出されて東京へ帰って行った。
あれから京助と千雪の邪魔をする気配は見せなかったが、東京へ発つ時、挨拶にやってきた千雪に、そうそう、と声をかけた。
「母上の絵、見たいよね? 裕紀さんに話しておくから、きっと喜ぶぞ。また連絡するよ」
「へえ、それはどうも」
心のこもらない礼を口にする千雪の後ろで、京助は紫紀を睨みつけている。
「こいつに用があるときは、俺を通すんだな」
不遜に言い放つ京助を紫紀はチラリと見やる。
「こういううっとおしいのといると、息が詰まるだろう? 千雪くん」
「ヘラヘラと親切ごかしの上っ面に騙されるなよ、千雪」
兄弟のああ言えばこう言うの応酬を、千雪はしらっとした表情で眺めていた。
「あの二人っていつもあんなんだからな。硬派な京助さん対一見軟派な紫紀さんて感じで」
キッチンで公一が千雪にこそっと話してくれた。
「まあ、京助さんは何考えてるのかすぐ顔に出るけど、紫紀さんは何考えてるのか、得体の知れないとこあるから逆に怖えけどな」
「どっちもどっちやろ」
つい口にした千雪に公一は苦笑いした。
「まあ、でかい会社継ぐような人だから、下々のもんにはわからねぇっつうか」
母の絵を見せてくれるというのは、実は千雪にとっても興味がある話なのだが。
紫紀が帰ると、京助もヤマアラシのような棘を引っ込めたが、日頃の疲れが出たのかわざわざ千雪の部屋にやってきてうだうだと半日寝て過ごしたりした。
この正月は結局京都の実家に帰るのを諦めた千雪は、三日に日本橋の伯父の家を訪ねたあと、また仕事に明け暮れる日常に埋没した。
- おわり -
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