一時間半のフライトで、京助と千雪の二人は都会の雑踏を離れ、一転雪が舞い踊る千歳空港に降り立っていた。
迎えに現れたのは茶髪にピアスの若者だ。
「公一、お前わざわざ借り出されたのか?」
「いやあ、バイト代出るし、スキー三昧できるし、一石二鳥ってとこ?」
ベンツのステーションワゴンの後部座席に千雪とともに乗り込むと、京助は運転している若者に親しげに声をかける。
「俺、てっきりいつもみたいに女の子うじゃうじゃ連れてくるんだとばっか……あ、すみません、いや、彼女と二人、お忍びでスキーなんて羨ましい限りっすよ。ってより、そんなチョー美人な彼女、どこに隠してたんです? いやー、ほんと……俺が知ってる限りでいっちゃんの美人!」
ちらちらとバックミラーで後ろを見ながら、藤原公一と名乗った若者は捲くし立てる。
女の子がうじゃうじゃ?
しかも、美人な彼女、という表現に千雪は顔には出さずとも心の中でむっとしている。
「バーカ、彼女なんかじゃねーよ」
京助がぶっきらぼうに言う。
「まーたまた、この期に及んで隠すことないでしょーが、身内なんだし」
「俺、小林千雪、言います。京助の後輩になるんで、よろしゅうに」
京助と公一の会話に輪って入った千雪は、むっとした顔を隠しもせずきっぱりと言いはなった。
「へ…………俺……??? って、まさか………」
「だから男だ。残念ながらお前の彼女にゃなれねーよ」
心底驚いたようすの公一に、京助が念を押す。
空港でも千雪は一応小林だとは名乗ったはずだが、またか、という成り行きである。
編集者の反応のように敬遠される方がマシだと思うのはこういう時だ。
「ウッソー? マジっすか? びっくりしたなーーー、すみません。あれ、でも、待てよ、確か、京助さん、例の名探偵の相棒、いましたよね? 小説書いてる人、確か小林千雪、って言いませんでしたっけ? 俺の記憶違い……かな」
一人で首を捻っている公一に、本人だ、とまた京助が答えた途端、車はキキーーーッと音をたて、車体の後部が横に振られる。
信号が赤に変わっている。
「このバカ、凍結した道で急ブレーキなんか踏むな!」
「すんませーん、びっくりして…………こないだはいたばっかのスタッドレス、結構いいじゃん。へへ………しっかし、こりゃ、オヤジも驚くわな~」
「オヤジって、藤原もきてるのか? こっちに」
京助は眉を顰める。
好き勝手できると思っていたのだが、口うるさいお目付け役がいるとは想定外だ。
「ええ、きっと京助さんのことだから、また何人も連れてくると思ったんじゃないっすか? どおりで荷物ないと思った。女の子なんかいっつもすんげー荷物だから、この車で大丈夫かなあと心配してたんすよ」
機内でようやく、京助のうちが持っている山小屋に行ってスキーをするのだと聞かされ、千雪は勝手に決めやがってと怒ったが、ここまできてしまえば仕方がない。
「でも俺、スキーなんか、高校の時授業でやらされただけやで。それに道具かて持ってへんし」
「んなもん、山小屋にあるから心配するな」
「第一着替えも何も手ぶらやし。北海道なんかくるんやったら、それなりに持ってきたのに」
今更ながらに千雪はグチグチと文句を並べたてる。
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