「スエットや着替えならさっき俺のキャリーケースに入れといた。軽井沢の方が近いがバカでかい屋敷で、会社の保養所も兼ねてるから今頃大賑わいだろうしな。セーターやなんかは涼用に揃えているのがある。お前と体格ほぼ同じだ」
「涼って、弟さんやったか? ンな、勝手に!」
「心配すんな、新品だ」
横柄に京助が電源する。
「そういうことやのうて、お前が勝手やいうとんのや!」
傍若無人な京助のやり方に千雪がああだこうだ言っているうちに、二時間ほどで車はニセコに入った。
しばらくすると外灯に照らされて年季の入った門構えが雪の中にぼんやり見えてくる。
「雪、すごくなってきたな」
公一は門の前で車を停めると携帯で帰ったことを相手に告げた。
「ちょっと待ってくださいね、親父が今開けますから」
親父というのは綾小路家に先々代から仕えるいわゆる執事だと、公一は運転しながら千雪に話してくれた。
現在K大二年で今時の若者らしい風貌の公一は、小さい頃から綾小路家で育ち、京助に少林寺を叩き込まれたというだけあって、いい体格をしている。
やがて門が開いて車が門をくぐるとまた後ろで門が閉じる音がした。
「京助、これを山小屋、言うんか? どういう神経しとんのや」
雪の夜を背景に現れたのは木造三階建ての洋風の大きな屋敷である。
「昔から山小屋って呼んでるんだから、仕方ねぇだろ」
「ヴァンダインの小説に出てきそうな屋敷やな」
屋敷を見上げる千雪の前でアーチ窓のある玄関のドアが開くと、初老の男が三人を迎え入れた。
「藤原、お前にわざわざいてもらわなくても俺らでやるから、もう帰っていいぞ」
「京助さん、お二人、でございますか?」
藤原と呼ばれた男は、さっき公一が話したような理由で訝しく思ったのだろうがすぐ「公一、お荷物をお運びして」と公一に命じた。
「夜分にお邪魔してすみません、京助の大学の後輩で、小林と申します」
中に入ると、千雪は藤原に自己紹介した。
「ようこそいらっしゃいました。小林様、お疲れになりましたでしょう、どうぞお部屋の方にご案内いたします」
一瞬、藤原は京助の後ろから現れた千雪を驚いたようすで凝視したが、すぐ何事もなかったかのように道中をねぎらった。
「俺が連れてくからいい。二階の端の部屋だろ? それより何か軽く食うもん用意しといてくれ」
「かしこまりました」
「ご厄介になります」
服装こそスーツだったが、藤原はちょっと頭を下げた千雪に対して背筋を正し、深々と頭を下げた。
「なあ、この建物、大正から昭和初期くらいのもん? ほんまに横溝とかの小説に出てきそうな部屋やな」
散々文句を言っていた千雪だが、俄然、古い建物に興味を持った。
京助に案内されて入った部屋は、ダークブラウンに統一された十畳ほどの部屋だ。
ふかふかの絨毯、窓座のある出窓、外へと中へと二重に開くようになっているフランス窓。
シャンデリアにカウチにタンス、テーブル、極めつけは天蓋つきのキングサイズのベッドとどれをとっても年代を感じさせるものばかりだ。
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