「すみませんが、中川さん立ち会ってもらえますか?」
「……はい」
強気のアスカもあまり気が進まないようだ。
「せや、ホテルに部屋取ったら警備つけてもろたらええんちゃう?」
千雪はいい加減、手を引いて帰りたかった。
「小林くんも来てくれるでしょ?」
「俺はいろいろ忙しいよって」
「え、小林くんの彼女さんじゃないの?」
渋谷が余計なことを聞いてくる。
「違いますよ。俺は見ず知らずの他人で、たまたま青山プロダクションの下で彼女にでくわしただけですて」
「女性が一人で困っているの放っとけないんじゃなかったの?」
アスカが言い募る。
自分で言うか?
「頼りになる警察や刑事さんらがいはるやろ? 俺の出る幕はもう……」
「いやっ! だって知らない人ばっかじゃない! 小林くんが一緒に行ってくれなきゃ行かない!」
これは相当我儘なお嬢様だと、ようやく千雪は合点する。
「俺かてついさっきまで知らない人やったやろが。幼稚園児みたいな駄々こねしてないで……」
千雪ははあ、と大きくため息を吐く。
「すまないが小林くん、彼女も心細いみたいだし、ついて行ってやってくれないか?」
渋谷も早いとこ動きたいらしく、そんなことを言ってくる。
「せえけど、所轄の刑事さんて、また、お前が何か関係してるんちゃうんかとか、言われそうやし」
ボソリと昨年容疑者扱いされた嫌味を口にする千雪に、渋谷が「カンベンしてくれよ、もう」と苦笑いする。
「俺もちゃんと同行するから」
「車、近くのパーキングに置いてるし」
「わかった。ちゃんと送り届けるから。でも中川さん、工藤さんとこの人じゃないんだ?」
渋谷が言うと、「違います」とアスカが答えた。
「工藤さんとこは万年人手不足やから手一杯で、これ以上タレントさんとか抱えるの難しいんちゃいます? ああでも、一人、社員になってくれそうな人見つかったみたいですけど」
千雪が言った。
「まあ、あの人も昔から苦労してるよな」
渋谷がしみじみと言う。
「子供の頃近所やったんでしたっけ?」
「いや、親父が工藤さんちの近くの交番勤務だったことがあってね。俺が小学生の時、工藤さん中学生で、ちょうどお祖母さんが亡くなった年だったかな。オヤジも不憫だって言ってて」
「ああ、それで平造さんが………」
そんな頃を渋谷が知ってくれているのは、工藤にとってはありがたいのではないかと思う。
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