「せえけど、いくら持っとるとかなんて聞いたことないし、向こうかて自分であんまり把握してないんちゃう?」
千雪は京助の顔を思い浮かべながら言った。
「あなたって変。浮世離れしてるって言われない?」
「ああ、似たようなこと言われたな。キャベツの値段も知らんのかて、ダチに。そういうことは詳しい」
千雪はエンジンをかけて車を出した。
六本木通りから桜田通りを走り、警視庁近くのパーキングに車を停めると、足早にアスカと一緒に警視庁に入っていった。
受付で渋谷の名前を挙げると、待つように言われ、やがて渋谷が降りてきた。
「え、今日はどういう………?」
渋谷は本来の千雪と明らかに一般人ではない雰囲気のアスカを交互に見て尋ねた。
「彼女が事件に巻き込まれて、自宅まで留守に荒らされてもうて、危険なんで連れてきたんです」
「わかった。じゃ、こちらへ」
渋谷は二人を小さな会議室に連れて行った。
「それで、詳しく聞きましょうか。私は渋谷と言います」
渋谷は名刺をアスカに差し出した。
「まず、お名前は?」
「中川アスカ、オペラコーポレーション所属のモデルです」
「年齢とご住所は?」
「二十一歳。もうすぐ二十二です」
アスカは碑文谷の住所を答えた。
渋谷の問いに、アスカはこれまでの出来事を端的に順を追って話した。
二人の男に追われて、千雪に助けを求めたこと、工藤の車で自宅に向かったが、留守宅に誰かが忍び込んでいたらしいこと。
「逃げようとしたら気づかれたみたいでまた追われて、二人でタクシーで小林くんの友達のマンションに隠れてたんです。そこで、事務所で拾ったキーホルダーを小林くんに見てもらったら、ヤバイ写真が一杯入ったSDカードが入ってたんです」
「ヤバイ写真?」
渋谷はアスカを見てから千雪に目を移した。
「事務所の副社長とモデルの一人がどうみても反社会的勢力の男から、怪しげな袋を手渡されてました」
千雪は渋谷にカードを差し出した。
渋谷はノートパソコンを持ってくると、カードを入れて中身を見た。
「これは、確かにヤバイですね。これをあなたが拾ったから、取り返そうと追いかけまわして、自宅まで押し入ったんでしょう」
渋谷は丁寧に対応してくれて、所轄の人間を碑文谷のアスカの自宅に向かわせることになった。
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