「ああ、楽天家もほどほどにや。とにかくセキュリティシステム入れた方がええし、一人の時は誰ぞ友達とか彼氏とかおらんのんか?」
「いたら、見ず知らずのあなたなんかとこんなとこにいないわよ!」
千雪の問いにアスカはあくまでも強気で言い放つ。
「それもそやな。ってか、マネージャーは?」
「もう一人の子と仲いいし、できてんじゃない? きやしないわよ」
なるほど、と千雪は思わず頭を掻きまわした。
「事務所はとんでもないと………まるで、どっちもあかんやんか」
「そうだって言ってるでしょ!」
勝気そうな目で睨み付けるが、その瞳の奥には怯えが窺える。
事務所というよりおそらく児島副社長という男がヤバいのだろうと、千雪は思うのだが、いずれにせよ、アスカは今、事務所の人間は誰も信用できないくらいな状況なのだ。
「ともかく、これから警察行くけど、警察にいっぺん調べてもらわんと自宅は怖いやろ。今夜泊るところ確保せなあかんで? どこかホテルとか」
「ここはダメなの?」
「ここか? まあ、さすがに女の子泊めるとなると本人の承諾なしではなあ」
「じゃあ、承諾とってよ。ホテルとか、怖い」
ふう、と千雪は怖がっているくせにどこまでも強気なアスカを見つめた。
その時、千雪の携帯が鳴った。
「ああ、ええ、それがちょっと面倒なことになってしもて。これから警察行くとこです」
工藤だった。
一応心配してかけて来たらしい。
「彼女はただ巻き込まれてしもただけやけど、ちょっと危ないんで」
何かあれば連絡しろと言って、工藤は携帯を切った。
「警察行くけど、状況がわかったら、家族にも連絡しといた方がええで?」
「うん………」
返事はしたがアスカは浮かない顔をしている。
「ほな、いこか」
ピアノの端に置かれた小さなトレーにキーがいくつか無造作に置いてあり、その中から千雪は車のキーを一つ取り上げた。
大阪へは新幹線で行ったはずなので、二台とも置いてあるはずだった。
アスカをナビシートに乗せると千雪は運転席に乗り込んだ。
「こんな車、お友達ってすごいお金持ちとか?」
「うーん、多分そうやないか?」
千雪は適当に答える。
「多分て何よ、お友達なんでしょ?」
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