メリーゴーランド136

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「函館。もともと一カ月くらいの予定だったから、いいんだけど」
 ということはしばらくアスカは一人だということだ。
 こんな物騒な一軒家にアスカを一人置いては置けないだろうと千雪は思う。
「ご両親には?」
「うーん、話しても、心配させるだけだし。ほとんど京都に住んでるから」
「え、京都にお住まいなん?」
「パパはK大の仏文の教授で、ママはフランス語の教室やってるの、向こうで」
「え、K大の…………?」
 確か、K大に中川って教授いたよな。
 ハーフとかで、バタ臭い顔した人、うちにも昔きたことあったような。
 千雪は高校時代の頃を思い起こして、同一人物だろうか、と思う。
「アスカさんはご両親どちらか外国の方なん?」
「あたしはクォーターになるのかな。パパがハーフで、亡くなったお祖母様がフランス人だったから。ママはフランス人」
 どおりで中川と言う日本名なのに、もろ欧州人という感じなわけだ。
 髪の色がブルネットで、しゃべりがまるでJKもどきだから、さほど違和感なく話していたのだが。
「あたしはお祖父様が大好きだから、ずっとお祖父様と暮らしてるの。あ、でも夏休みとかクリスマスにはパパもママも戻ってくるから」
「いくら無能な警察でもその頃までには、事件も解決してくれはると思うけど」
 ちょうど戻ってきた渋谷がそれを聞いていて、「はあ、無能な警察もとにかく動きますから、お二人ともご同行願います」と苦笑した。
 碑文谷に向かう車の中で、部屋のことをアスカに告げた。
「ちょうどさっきダチから電話があって、危ない目に合うてる女子ならどうぞて、部屋使わせてくれる言うてたで」
「え、ほんと? よかった!」
「何時になるか知れんし、これからホテル探すいうのもなあ。あの部屋ならごっついガードマンもいはるし、アスカさんも安心して眠れるんちゃう?」
「小林くんは来てくれないの?」
「んなもん、いけるわけないやろ。それに明日朝早いし」
「え、学生とか?」
「うーんまあ、似たようなもん? って、社会人かとは聞かんのんか」
「だって、昼間っから青山プロにいる人なのに?」
 後部座席の二人の会話を聞いていた運転席の渋谷がくすくす笑う。
「俳優志望なんだ? 工藤さんとこでデビューするんでしょ?」
「いや、俺に演技さしたら学芸会もええとこやから」
 学芸会と言えば、高校の文化祭の劇で白雪姫をやらされた黒歴史が思い出されて、千雪は眉を寄せる。


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