「そうかな? あの工藤さんをアゴで使うとか、只者じゃないわ。え、まさか、密かに映画に出るとかじゃないでしょうね?」
「映画なんて」
千雪は苦笑する。
「花のふる日は、よ! 工藤さんが大々的にプロモーションしてる、話題作じゃない!」
「話題作、なん?」
「あ、そうだ、渋谷さん!」
アスカの発言はコロコロと変わる。
今度は運転席の渋谷に声をかけた。
狙われているというのに、いい気なものである。
「ねえ、名探偵ってほんとに事件解決したの? 逢ったことある? 小説家の小林千雪!」
「え?!」
渋谷は口ごもった。
おそらく千雪はアスカには話していないのだろうと思っていたが。
「まあ、ありますよ。ほんとに事件解決してくれましたよ。冤罪事件になるところを警察は救われました」
「そうなんだ?!」
アスカは嬉しそうに言った。
「あ、そういえば、同じ小林だ」
今度は千雪を振り返る。
「小林なんてようけあるし」
「関西弁も同じ」
「東京の関西人なんてやまほどおるんちゃう?」
「そうよね、だって………」
少しは疑ったのかも知れないが、千雪の仮装はどこまでも浸透しているらしいので、誰もがよもやと思うのだ。
中川家に着くと、既に所轄と鑑識が中に入って作業を進めていた。
「玄関のドアの鍵が壊されていたようです」
渋谷が所轄の刑事から状況を聞いてきて、そう告げた。
アスカはそれを聞くとぞっとしたように家の前で目を凝らして立ち尽くした。
「あの、お祖父様のアトリエの方は大丈夫でしたか?」
渋谷はまた所轄に聞きに行ってくれた。
「大丈夫でしたよ。アトリエは鍵もかかっていましたし、入った形跡がありませんでした」
「そう、よかった。お祖父様の絵がどうにかなっていたらと思うと気が気じゃなくて」
「二人を追いかけてきたので、アトリエは手を付けなかったのかも知れませんね。いずれにせよ、この近辺はパトロールを強化させます」
渋谷はアスカを安心させようと強い口調で言った。
「よかったな。アトリエ、大丈夫で」
下手な慰めの言葉を千雪は口にした。
アスカは黙ってちょっと涙目のまま頷いた。
もう日が変わるという頃、作業が終わると、渋谷は千雪とアスカを乗せて麻布へ向かったが、渋谷の指示で所轄の若い刑事二人がアスカの警備のため、渋谷の車に続いていた。
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