「それは、そうだけど、どうしてちゃんと小林千雪だって言わなかったのよ!」
まだ納得がいかないアスカは、あらためて問いただした。
「やから、やっぱ、名探偵小林千雪いうブランドをそう簡単に壊すわけにはいかんやろ? せっかく世の中、あのおもろいイメージが出回っとんのに」
千雪は茶化して言った。
「名探偵てブランドやったんか?」
そこへ風呂から上がった辻と三田村がざわついているリビングにやってきた。
「そらそやろ。それで売っとんのに、簡単に正体明かせんわ」
辻のお茶らけに、三田村が笑いながら応じた。
「え、ウソウソ、あなた、小林千雪?」
一テンポ遅れた反応で喚いた日向野がまた立ち上がった。
「渋谷さんがあなたが怪我した時、千雪くんって言わなかったら気づかなかったわよ」
悔しそうにアスカが言った。
「え、お前、怪我したんか?」
研二は驚いて千雪の腕を掴んだ。
「平気や、もう治った」
「あれから小林千雪に会わせてって言っても渋谷さん、個人情報がどうタラとかって教えてくれないし、工藤さんまで社外秘だとかって! 文句も言えないし、お礼もできないじゃない!」
千雪は苦笑した。
「ほな、今言うたからこれでちゃらな? みんな風呂行きたいし」
千雪の言葉にみんなはぞろぞろと動き始めた。
その時、門のチャイムが鳴ったので、京助が携帯で応対した。
「はい、どなた? ………今、開けます」
京助は玄関に向かった。
「何、君、中川アスカやろ? 千雪と何があったん?」
興味津々で三田村がアスカに声をかけた。
「誰?」
アスカは怪訝な顔で睨みつける。
「俺は三田村。千雪の高校の同級生。こいつら研二と辻」
軽く紹介すると、アスカは「前の事務所の副社長とかの事件に巻き込まれたのよ」と答えた。
「え、ひょっとして、ヤクザが絡んだ麻薬所持でモデルの何とかって子と捕まったってやつ?」
「それで移籍したんや?」
首を突っ込まなくていられなかった佐久間が声をあげた。
「あ、俺、千雪先輩の研究室の後輩で佐久間です」
「別にそれで移籍したわけじゃないわよ。それを利用して、小林千雪がいるから今の事務所に入っただけで」
「は?」
佐久間とアスカが話しているうちにと千雪は研二とアスカの横を通り過ぎようとした。
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