クローゼットならぬ押入れにはハンガーラックや収納ケースがあるのだが、半分は京助のものだ。
重すぎて壊れたのを、東京ハンズで購入した頑丈なハンガーラックを設置したり、クソ狭いベッドで無理やり男二人で寝ていたために壊れそうになっていたのを、ついにこの夏、我慢できなくなった京助が、ギリギリ部屋に置けるだろうセミダブルのベッドと勝手に交換したところだ。
雪崩が起きそうになっていた千雪の蔵書は、京助がDIYで壁いっぱいに天井までの棚を二つ作り、一つはキャスター付きで動かせるようになっている。
京助の本も結構な量置いてあったりする。
自分一人なら使わないだろう、鍋がいくつか、フライパン類、食器、それらもキッチンの棚に入らないものは、適当な棚を設置して収納してある。
歯ブラシ、シェーバー、その他こまごまとしたものまでいつの間にか増殖しているのだ。
さっき京助とあかんようになったらとか言うたけど、そうなったらこれらどないするん?
いらないものばかりではないだろう。
そういうことを考えるだけでもう千雪はウンザリだ。
ああ、何かあれ、あったな、「中途の家」、あの小説に出てきた男みたいや。
まあ、ほんまに向こうに誰ぞおったりしたら、この部屋から蹴り出したるけどな。
今夜はいろいろな話を聞かされた千雪は頭の中が整理がつかない感じで、ソファに座ったまましばらくぼんやりとしていた。
このソファも小さ目ではあるが、もともとDK六畳と奥の和室六畳の間にあった襖を取っ払って、勝手に京助が入れたものだ。
狭くなるだけだと抗議した千雪だが、意外にもそこに腰を降ろしていることが多くなった。
「だいたい、ベストセラー作家のくせ、いつまでこんな狭い部屋に住むつもりや?」
三田村がこの部屋に来た時、そんなことを言っていたが、千雪としては大学に近く、この部屋は既に住みなれた我が家となっている。
たまに訪れる編集者からも似たようなことを聞いた気がするが。
いや、何より、面倒くさがりの千雪としては動く気がさらさらないというところか。
「今、湯を張ってるから入れよ」
とっととシャワーを浴びてきた京助はタオル一枚を腰に巻いて、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
千雪はのそのそと立ち上がり、風呂場の前で服を脱ぐ。
洗面台の鏡には見飽きた自分の顔が映っている。
十人会えば十人ともが、きれい、と言いそうな顔は、二十歳をとっくに過ぎても少年のような雰囲気が消えていない。
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