メリーゴーランド21

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 ぼんやりと窓の外を見ていた千雪は、春の陽ざしが温かくうっかり転寝でもしそうだと顔を上げた。
 午後からオフィスに来いと言われて乃木坂にある青山プロダクションオフィスに来ているのだが、相変わらず暴走気味に忙しそうな工藤はさっきから電話の相手に怒鳴り散らしていた。
 忙しければ、また来ますとでも言って帰りたいところだが、予定もない日だったので、ほんとに寝てしまおうかとさえ思ったりした。
「コーヒーおかわりいかが?」
 鈴木さんが気を利かせて聞いてくれるのだが、これ以上飲んだら胃がタプンタプンいいそうだ。
「いえ、お構いなく。忙しそうですね、今日も」
「そうなのよ。結局、今年も新入社員は見送りだったから、お一人でずっと動いてらして。難しいわね、なかなか」
「面接でまた、学生を睨み付けたからやないですか、工藤さん」
 鈴木さんは、ホホホと笑って自分のデスクに戻る。
「いっそのこと鈴木さんが面接やらはったら、安心して入社しはるんやないですか?」
 その時、ドアが開いて風が少しオフィスにも流れ込んだ。
「万里子さん、春風とともに登場やね」
「千雪さん、まちぼうけ?」
 女優の小野万里子は、千雪原作の映画「花のふる日は」に出演中だ。
 ソファに腰を降ろして、まだ電話をしている工藤を見た。
「ええ陽気で、寝てまいそうや思うてたとこ」
「もうすっかり春ね~。そういえばすごい人気みたいね、原夏緒展」
「すごいいうほどやないけど、結構人入ったはるみたいやね」
 展覧会が始まって十日あまり、新聞やテレビなどでも報道されたお陰で、海外の有名画家の展覧会をしのぐほどの来館者数だ。
「やっぱ宣伝力が物言うんやと改めて思た」
 スポンサーの東洋グループの広報が力を入れていて、九条美術館の由来までが報道されたため、美術館自体も観覧対象となっている。
「何言ってるの、素敵な作品ばかりじゃない、今まで取り上げられなかったのが不思議なくらい」
「まあ、父も母も偉大なひとやったみたいやけど……」
 自虐気味に言う千雪を万里子が笑う。
「何をすねてんのよ」
「いやあ、その息子は三文ミステリー作家やから」
 すると万里子はさらに笑う。
「三文ミステリーのお陰で、私は映画に出られるんだから」
 そこへ準主演の志村嘉人とマネージャーの小杉が現れた。
 さらに万里子のマネージャー菊池も息せき切ってやってきた。
「お疲れ様、菊池さん、大丈夫?」
 菊池は四十代だが、俳優陣を覗けば、青山プロダクション第一号の社員だ。

 


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