黒い陶器の器に研二が小ぶりな和菓子を三個並べて持ってきた。
「お、きれいや!」
「右が渡月橋をイメージしたやつ。真ん中はまあ、月やな、しいて言えば雪待月。左は唐紅、かな」
「細かい細工や。食べるの惜しいなる」
「やから、刹那のもんや。それに菓子は食べてもろてこそや」
千雪はポケットから携帯を取り出して撮る。
「お抹茶でええやろ?」
研二は盆に茶碗、茶筅、茶入れ、茶杓を乗せ、片方の手には湯沸かしを持ってくると、隣に座り、茶入れから抹茶をすくって茶碗に入れた。
湯を静かに注ぐと、細かく茶筅を振る。
凛としたたたずまい。
精悍な横顔は変わらない。
「いつの間にお茶なんかでけるようになったん?」
「大学の時、菓子職人やったら、お茶も必須や思て」
お茶の香りが心地よい。
千雪は唐紅と呼んだ菓子を口に入れた。
「見た目とちごてほんのりした甘味がええな」
お茶がまた美味い。
「菓子とお茶の組み合わせて、ほんまに絶妙やな」
「武道と同じで奥が深いで」
研二が笑う。
甘味が抑えられているので、あとの二つもあっという間に千雪は食べてしまった。
「甲乙つけがたいけど、このお月さまも飽きない感じや。こっちはちょいクセがつおいな」
「わかった。この二つは店に並べるわ」
「他にも意見もろた方がええで? 俺、好き嫌いあるし」
「あるからちょうどええやろ?」
研二は笑い、お茶のセットを片付けると、「ちょっと待っててや」とキッチンに消えた。
やがて今度は大きめの盆にご飯、みそ汁、刺身、煮物椀、焼き魚などが並び、お猪口も置いてある。
「茶懐石のメニュー作ってみたんや。ほんまの茶懐石は菓子とお茶、あとからやけどな」
「こんなん作れるん? すごいな研二」
「これは俺が作ったもんやから、味はそこそこやけど、茶懐石膳も店でいずれはやれたら思うとる」
千雪は目の前に並んだ料理を眺めて、「すごいわ、ちゃんと考えとおるんや」と感心する。
研二は自分の分と、熱燗にした徳利を二本持って来て、千雪の横に座った。
「熱燗でええやろ?」
徳利を差し出して、研二が言った。
千雪が手に取ったお猪口に酒を注ぎ、自分のお猪口にも注ぐ。
「ほな、まあ、研二の新しい門出に」
千雪が言った。
「おおきに」
口にした酒は少し甘めで、身体が温まる。
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