今、あいつらの過去が追いついてきた、京助はそんな気がして、さらに焦燥感を募らせた。
一方千雪は、足早にキャンパスを出ると、アパートに向っていた。
午前中には教授の手伝いも終わり、教授は学会に出席のため早々と大学を出ていたし、雑多な仕事は今日でなくてもよかった。
研二の電話は、特に何か重要なことを話したいとかいうようなことでもなく、新しい菓子をいくつか作っているが、試食にこないか、ついでにメシも一緒に食わないかという誘いだった。
新しい店の方はあらかた工事は終わり、あとはスタッフの教育やミーティングを行い、店内でのオープンを待つのみというところだという。
千雪は即答して行くと告げた。
何か、もし今日、研二に会わなければ、もう永遠に逢えないかのように気が急いて、千雪はそそくさと着替えると、地下鉄へと急いだ。
井の頭線の神泉駅で降りると、通りがかりのコンビニでビールを調達して研二のマンションに向かう。
チャイムを押すと、すぐにエントランスのドアが開いた。
千雪は、階段を上がってドアフォンを押した。
「えろ、早かったな。上がれや」
今まで通り優しい研二の顔がそこにあった。
段差はないが、スニーカーをスリッパに履き替えると、千雪はビールの入った袋を渡した。
「おう、おおきに」
研二はビールを冷蔵庫にしまうと、リビングのソファに千雪を座らせた。
この部屋を訪れるのは引っ越しの日以来だ。
相変わらずスタイリッシュな空間は、そこで動いている研二によく馴染んでいる。
それは研二に対する新しい発見だった。
研二のことを想像すると、京都のあの街の、古い暖簾をくぐり、襖を開けると畳が敷かれた古い日本家屋が目に浮かぶ。
その二階に研二の部屋があった。
研二はいつも頭をぶつけそうな鴨居をひょいと除ける。
小学校の時から高校までずっと使っていた机は千雪もよく遊びに行って本や漫画を広げていた。
今でも鮮明に思い出される。
研二の笑顔とともに。
周りはいつも怖い顔をしているやつ、と研二のことをそんな風に言っていた。
そんなことない、研二はいつも笑うとる!
千雪は子どもの時一生懸命近所の悪ガキどもに怒鳴りつけた。
江美子がある日教えてくれた。
研二くん、千雪くんにしか笑うたりせんのんよ。
「千雪?」
研二に呼ばれて、千雪はふっと現実に戻ってくる。
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