少なくとも薫の一言がきっかけで、研二はおそらく江美子のことを考えたのだ。
自分が傍にいると江美子が千雪に近づけないだろうと。
「にしても、はあ……まさかこんな形でまた顔を合わせることになるやなんて」
千雪はいかにも憂鬱そうな顔で言った。
「しかも京助の従妹? あれへんわ……」
「おい、俺は関係ないぞ!」
千雪に睨まれた京助は断言した。
「せえけど、小夜ねえは紫紀さんと結婚すんねんで? 何かの呪いとしか思われへん」
「お前、呪いってな」
今度は京助が嘆息した。
「もっとポジティブに、建設的に考えられねぇのか?」
「悪かったやん、ネガティブで」
千雪は頬杖をついて呟いた。
「フン、さては、原稿が煮詰まってるとかだろ」
鼻で笑われて、長い付き合いで千雪の行動パターンを読まれていることに、千雪はクソと思う。
「煮詰まりもするがな。来週末にパリとか、それまでに上げられるかどうか」
「何言ってんだ、今時、飛行機の中だろうがパリだろうが、やることは同じだろうが。文字を並べて送信すりゃいんだ」
「他人事や思て」
「俺の仕事じゃねぇからな」
フン、とばかりに立ち上がり、千雪はたったか学食を後にする。
無精髭に疲労を滲ませたまま、京助は千雪を目で追った。
「あ、京助さん!」
聞き覚えのある声に京助は緩慢に顔を上げた。
「ごめんなさい、お疲れみたいだけど、こないだ言ってた追い出しコンパのことなんだけど」
どうやって京助を見つけ出すのかわからないが、伊藤の後ろには、今日も地味目なスーツの木村が立っている。
「お店は『西之屋』でいいかな? あと京助さんのスケジュール教えてほしいんだけど」
「ああ、任せる。OBの俺のスケジュールなんか聞いたってしゃあないだろ? 決まった日程に顔出せれば出すから」
京助はけんもほろろに言い渡すと、空の食器が乗ったトレーを持って立ち上がった。
「伊藤さん、『西之屋』だと、早いとこ予約しないと、取れなくなっちゃうよ?」
木村が言った。
「わかってる……あーあ、コンパ口実にもっとお近づきになりたかったのにさ」
伊藤はぼそっと口にする。
「京助さん、狙ってる子多いけど、案外硬派だからね、京助さんて」
「だよね。モテ男だからもっとチャラい系かと思ったけど」
もう一度、あーあ、と声に出す伊藤を木村が促して学食を出て行く。
その様子をさりげなく見ていたのは速水だった。
ちょうど速水が定食を持って座った頃に京助が学食を出て行った。
「ふーん、二人とも日向野よりはマシみたいだな。それに、木村さんも伊藤さんの陰に隠れているとか言うんでもないらしい」
ぼそぼそ独り言を言う速水を向かいに座る男子生徒が訝し気に見た。
速水はわけもなく笑い、定食を食べることに専念した。
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