「やから早いとこ帰りとうて、明日の便で帰るし」
「ええええ? だって、昨日いらしたばかりでしょ? 一緒にパリの街を歩きたかったのに!」
「バイオリン、頑張り」
そこで会話に終止符をうつと、千雪は小夜子のところに行った。
「ちょっと、小林さんの彼女って、どんな人よ!」
薫子は京助を捕まえて問いただすのだが、「さあな」と京助はのらりくらりと言葉を濁す。
何だって千雪にはこんな女ばっか寄ってくるんだ?
アスカにしろこいつにしろ!
イラつきながら京助は千雪の後ろ姿を睨み付けた。
視線をずらすと紫紀と小夜子がほほ笑んでいる。
案外うまくいきそうだよな、あの二人。
千雪が思ったように、紫紀と小夜子はまるでもう随分長いことカップルだったかのように、自然に寄り添っている。
「あとは問題の披露宴さえ終わればやな」
結局また、京助、千雪、長樹の三人で、他の親族より早めの便で東京に向かった。
ぽつりと呟いた千雪の言葉に、京助も「ああ、とっとと終わってくれ」と呻いたのだった。
機内でも寝たはずなのに、まだ足りなかったのか、京助に起こされるまで爆睡していた千雪はあたふたとパンを齧り、スープを掻き込むようにして飲み、京助に遅れること十分、のたのたと大学へと向かった。
何とか午前中が終わり、京助に持たされたおにぎり弁当を抱えて学食に行き、隅のテーブルに座った途端、うつらうつらしていた。
「先輩、おにぎり持って寝てはるし」
助教に大量のコピーを頼まれて、席を外していたはずの佐久間が、いつのまにか向かいでかつ丼を食べている。
「昨日帰って来はったんでっか? パリから。ほんまにとんぼ返りでんな」
佐久間の喋りにようやく目を覚ました千雪は、おにぎりを齧り、卵焼きを口に持って行く。
「相変わらず美味そうな弁当……。ってまさか、京助先輩もとんぼ返りしはったんでしょね?」
「京助は強靭な意思を持ってるらしいわ。目覚ましさえあれば起きれる。俺はあかん」
もともと京助は空手部でかなりきつい練習を自ら課していたせいもあるが、法医学教室では仮眠しては叩き起こされ、まるで修行僧のようだとブツブツ文句を言っていた。
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