メリーゴーランド256

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「いや、原稿はもうええねん」
「もう、あがったんか?」
「そやのうて、ちょっと休み」
「はあ?」
「まあ、三文探偵小説が載らんかっても別に誰も気にするほどのことやないし」
「なんやねん、それ!」
 三田村は強い口調で千雪に問いただす。
「三田村、顔、怖いで」
「当たり前や。原稿、落としたいうことか?」
「まあ、結果そうなるわな。新人作家が休みたいとか、いくらでも代わりはおるやろし、依頼ものうなるか知れん」
 三田村は思わず千雪の横に腰を降ろした。
「どないしたんや」
「どないもこないも、書けへんねん、もう」
「書けへん、て、つまりスランプか?」
「そんな大それたもんやないわ。ネタがつきたんかもな」
 三田村は千雪の手を握り、大きな溜息をついた。
「そうか………まあ、そういうこともあるわ。桐島もついこないだまでそやった」
「俺なんかと比べよったら桐島が怒るで」
「まあ、いろいろあったしな」
 千雪の手を握ったまま、三田村はぽつりと言った。
「あんな、三田村、このシチュエーション、道行く人にいらん妄想おこさせるんちゃう?」
 言われて振り仰いだ三田村は二人を目を丸くして凝視しながら行き過ぎる男とバッチリ目が合った。
「勘ぐりたいやつには勝手にさせとけばええ。けど、お前やと男同士ともみられへんかったりして」
「お気楽なやっちゃな」
 そう言いつつ、千雪は何だか三田村がそうやって手を握ってくれていることに何となく安堵感を覚え、あえて離そうとしなかった。
「そうか……まあ、あれや。気分転換になるんやったら、いつでも俺ン部屋きたかてええし、そういう時は無理に何かしよう思てもあかんやろし」
「一つだけ癪に障るんは、速水さんを喜ばせることになってしもたことだけや」
 千雪は顔を顰めた。
「ああ、あの人、千雪の天敵? 桐島のことでそこまでお前嫌うとるんか」
「それだけやない」
「他になんぞあったんか?」
「言いとうない」
「あそ。今まで忙しすぎたんや。小夜子さんの披露宴がやっと終わって気が抜けたんちゃう? ま、スランプいうても一過性のもんやろうし」
「どっか行こかな……北海道の最北端とか」
「う………せめてハワイとか南の島にせえよ。よけい鬱々となりそや」
「三田村、遅刻するで?」
 はっとして三田村はホームの時計に目をやった。

 


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