「……行ったんや。金沢、春に。研二のヤツを驚かそ思て、いきなり。そしたら、研二の部屋から彼女が出てきて、研二の車でどこか行きよった」
「ほんまか。それ研二に言うたか?」
三田村は勢い込んで千雪に聞きただした。
「言わん。俺はそのままUターンしただけや。京助が言うた通りやて。頼りがないのんは、オンナができたんやて」
三田村ははあ、と大きな溜息をついた。
「そこやったんか。誤解の大元は」
三田村は一人頷いた。
「何や、誤解て」
「彼女と知り合うたんがその頃やて。それも一年の時、インカレで研二を見てから夢中になった彼女が仕掛けたウソやったらしいで」
「ウソ?」
「せや。結婚してから真由子さん白状したらしいけどな。足挫いたて、研二のアパートの前で転んで見せて、あの通り研二は堅物で優しいからな、古典的な罠に引っかかったいうわけや」
三田村は苦笑しながら首を横に振った。
「まさか、それにお前まで引っ掛かっとったとはな。それでお前からも研二に連絡とらんようになったいうわけか」
それを聞いて千雪は眉を顰めた。
「何や、それ………」
「これ以上は俺と話すんやのうて研二と直接話せ!」
俄かに慌て出した三田村はスーツに着替えると、千雪を急かせて部屋を飛び出した。
地下鉄のホームまで来たものの、ぼんやりしていた千雪は、後ろから来た男に突き飛ばされてよろけた。
「おい!」
三田村は文句を言おうとしたが、男は人混みに紛れ、到着した電車からどっと人が降りてくる。
その電車を見送って、三田村は千雪の腕を掴んでベンチに連れて行って座らせた。
「こら、千雪、大丈夫か?」
「あ? ああ」
生返事をする千雪の顔を三田村は覗き込む。
「こらあかんな。どないしょ」
三田村はホームの時計で時刻を確認する。
「大学送ってからやと完全遅刻やな」
三田村の会社は虎ノ門にある。
「直行でA社行ってから出社ってことにすれば………」
ブツブツ口にする三田村に、「アホやな、子供やあるまいし、一人で行けるわ。はよ、会社、行け」と千雪は言った。
「そうかて、お前、さっきもぼおっとして、突き飛ばされよったやろ」
「ちょっとまだ頭が働かんかっただけや」
「また原稿書いとって徹夜続きとかなんか?」
そう聞かれて千雪は少し躊躇した。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
