まどろみの中で猫の泣き声が聞こえた気がして、千雪は目を開けた。
本を読みながら眠ってしまったらしい。
晴れていれば陽ざしが温かいこの空間はひどく心地よく、いくらでも惰眠を貪れる気がした。
最近のベストセラー本を数冊買って来て読んだのだが、少し食傷気味で今度はドストエフスキーを読んでいたのだが、あまりにたくさん、しかも長ったらしい名前がいくつも出てきたので眠くなったのだ。
しかし十九世紀のロシア文学は面白いと千雪は改めて思う。
今度はシェークスピアあたりにしてみようかなどと思いつつ、千雪は携帯を見た。
時刻は午後二時になろうとしていた。
「腹、減ったな……」
今日もおにぎりを作り置きして研二は出かけて行った。
「お前まで俺を甘やかすなや」
おにぎりくらい自分で作れると宣言した千雪だが、研二もてんで信用していないようだった。
研二の部屋に来て三日目。
パソコンは持って来ていないので、研二のオーディオセットから映画をいくつか見たり、本を買って来て読んだりで時間が過ぎて行った。
本屋やコンビニ以外、どこかに出かけようという気にならず、いつまででもおってええで、という研二の言葉に甘えている。
何となく、自分の部屋に戻る気になれず、今日も一日が過ぎてしまった。
着信音をミュートにしているので、ラインも電話も一切出ていない。
大抵、佐久間あたりがかけてきている程度だから放っている。
「教授にちょっと休みもろたんや」
それだけしか千雪は言わなかったが、研二は深くは聞かなかった。
おそらく三田村から、書けなくなった云々は聞いているのだろうと千雪は思った。
下着類は買ってきたが、セーターなどは研二のものを借りて着ている。
朝は大抵八時過ぎには出て、店は八時には閉店するので、研二は大抵九時半頃に帰って来てから夕食だ。
基本、週休二日でシフトを組んでいるという。
「今日は近場の店に食べいこか」
九時を少し回った頃帰ってきた研二が言った。
「そろそろクリスマス商戦に向けて、メニューもちょっと考えんとな。偵察もかねて」
「もうクリスマスなん?」
「もうじき十一月も終わりやからな。店のレイアウトもみんなで検討中や」
「そうか」
みんなが懸命に仕事をしているというのに、千雪は一人怠惰に過ごしている自分が少し情けない気がするのだが、どうにも何かをしようという気にならないでいる。
二人は部屋を出ると、歩いて数分程の距離にあるイタリアンテイストのカフェレストランに入って行った。
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