「千雪ちゃん、いらっしゃい。どうしたの、今日は?」
応接室に通されて、待っていると、小夜子が現れた。
白のふわりとした生地のゆったりした大き目のフレアワンピースの小夜子には、輝くような美しさと明るさがあった。
千雪は少し驚いた。
明らかにふさぎ込んでいた頃とは違った何かが感じられた。
「さっきね、秘書の北野さんが、銀座で美味しいケーキを買ってきてくださったのよ」
小夜子は有名どころのパティシェリーの箱から、豪華版ミルフィーユを二つ取り出すと皿に置いた。
「大きいわね~」
ポットのお茶をカップに注ぐ仕草までが、溌溂としてみえる。
「美味しい~」
「大きいから大味な気いしたけど、美味いわ」
昼はうどんをすすっただけだったからか、さっきはマフィンを食べたのに、ケーキはサクッとくちどけもいい。
ペロッと食べてしまい、紅茶を飲んで、千雪はどう切り出そうとタイミングをうかがっていた。
「そうだ、何か御用だった? 千雪ちゃん」
「うん、なあ、小夜ねぇ、紫紀さんと付き合うとるん?」
結局、ズバリと聞いてしまった。
「あら、京助さんに聞いたの?」
「え、って、ほんまに?」
「うーん、付き合うというか、そうねぇ、お試しみたいな感じ?」
「何やね、それ? 第一、こないだ二人ともなんか喧々囂々いう雰囲気やったやん」
呆れた顔で、千雪は小夜子を見つめた。
「だって、みんなが、もっと外に出た方がいいとか、いろんな方とお付き合いしてみればいいとか、言ってたじゃない?」
「いや、それはそうなんやけど、うーん、俺が引っ掛かったのは、何で紫紀さんなんかなって。今までもそれこそいろいろ縁談とかあったんやろ? 中には大企業の社長さんとかもいたはったみたいやけど、みんな断ってしもたって」
それは小夜子から聞いたことだ。
「それはね、まず、こういう素性の人、ってのがあってだったでしょ? 私は素性と付き合うわけじゃないしって思ってたのよ」
「それはわかるけど」
「そうね、何だか、猛さんが、そろそろ外に出てみたらって言ってるように思えたのね」
小夜子は本当に吹っ切れたかのようにほほ笑んだ。
「展覧会始まって二日目だったかしら、一人でふらっと美術館に行って、作品をじっくり見てたの。そしたら、紫紀さんが偶然いらして、絵の話になって、あの方九条館長の受け売りだとかおっしゃってたけど、ヨーロッパの美術とかに造詣がおありで、いろんなお話をしてくださったのよ」
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